研究実績の概要 |
本研究課題の目的は, 滑らかな境界を持つ領域における非線形偏微分方程式に対する, 数値解法の数学的な解析を行うことである. 偏微分方程式は物理現象などを数学的に記述した方程式であり, これを数値的に解くことは, 現象をシミュレーションし, 理解するために重要である. 数値解法の数学的な解析を行うことは, シミュレーションの正当性を数学的に保証することに繋がる研究である. 本年度は, 非線形発展方程式に対する構造保存数値解法の構築を行った. 特に, 曲線に対する曲率流方程式やWillmore流方程式などの変分構造を持つ方程式や, その制約条件付き問題を取り扱った. これらの方程式は, 界面現象に現れる偏微分方程式として知られているが, 数学的に未知の部分が多い非線形偏微分方程式である. また, KdV方程式などの保存則を持つ方程式に対して, 構造保存かつ線形な解法の構築を行った. 具体的には, SAV法と呼ばれる, 変分構造を持つ方程式に対する線形解法を構築する手法を拡張する研究を行った. オリジナルのSAV法は, ポテンシャルが下に有界という条件を課しており, この条件を本質的に用いていた. 本研究では, この制約を外すことに成功した. これらの方程式はいずれも本研究課題の範疇にある非線形方程式である. その数値解法の解析を行うことが本来の目標であるが, そもそもこれらの非線形方程式は数値計算を行うこと自体が難しいため, 本研究は数値解法の構築を行った. これらの成果は論文として投稿中, あるいは執筆中である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非線形偏微分方程式に対する数値解法は, 解析以前に「良い解法」を構築する必要があり, 「良い解法」である方が良い解析結果が得られると期待できる. 本年度は, その「良い解法」の構築を行うことに成功したため, 順調に進んでいると言える.
|
今後の研究の推進方策 |
今後は, 本年度構築した解法の, 安定性や誤差評価などの理論的解析を行う必要がある. そのために, 対応する線形方程式に対して, 最大正則性などの離散的な不等式評価を得ることが必要である. 放物型方程式に対してはすでに一定の成果があるため, 高階の楕円型作用素やStokes方程式などの方程式に拡張することが今後の課題としてあげられる.
|