研究課題/領域番号 |
19K14598
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
江夏 洋一 東京理科大学, 理学部第一部応用数学科, 助教 (90726910)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 事由境界問題 / 進行波解 / 感染症モデル |
研究実績の概要 |
感染個体が生息領域を拡げる様子を記述した自由境界問題をもつ感染症流行の数理モデルにおいて,形状を保ったまま(半)空間上を伝播するような進行波解(semi-wave)の存在・非存在に関する問題を主に取り組んだ.成果の一つとしては,個体の出生や死亡を考慮しない短期流行モデルにおいて,感染個体の空間拡散のみを考慮した場合に,生息領域の移動境界の速度を決定づける移動係数が小さい(感染個体群が移動境界上で生息領域を拡げる力が弱い)ときには進行波解が存在せず,移動係数が十分大きい(感染個体群が移動境界上で生息領域を拡げる力が十分強い)ときには進行波解が存在することを示した.また,数値シミュレーションにより,感受性個体と感染個体双方の空間拡散を考慮した場合に,進行波解の存在・非存在をはじめ,元の自由境界問題における感染個体数に対応する解が Spreading(感染個体の移動境界が際限なく遠方に広がり,生息領域内で感染が定着してしまう)あるいは Vanishing(感染個体の移動境界が遠方に広がらず,生息領域内の感染個体が時間経過にしたがって 0 に近づく)のいずれかの様相を呈することを確認した.さらに,感染個体の空間拡散のみを考慮した場合に,感染個体の回復率および移動係数に関するパラメーター領域を与え,回復率が小さく,移動係数が大きい側の領域では,Spreading が起こり,回復率が大きく,移動係数が小さい側の領域では,Vanishing が起こる傾向があることも観察できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複数の未知関数から成る自由境界問題においては,単独の未知関数での議論を直接応用することが難しく,解の Spreading や Vanishing をはじめ,未知関数を多くもつ常微分方程式の解析による進行波解の存在性まで言及している先行研究が少ない中で,本研究はおおむね順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
感染症の流行を記述した自由境界問題に対しては,時間発展に伴う解の挙動に関する数値シミュレーションも用いることで,「感受性個体と感染個体双方の空間拡散を考慮した場合」,「感染個体の空間拡散のみを考慮し,かつ移動係数が十分大きい(生息領域を拡げる力が十分強い)とは限らない場合」や「個体の移流拡散を新たに考慮した場合」などでの進行波解(semi-wave)の存在・非存在に関する結果を得るまでの見通しも今後立ててゆきたい.また,潜伏期間を表すタイムラグをもつ感染症流行モデルにおいては,これまで得た解析結果を,免疫損失やワクチン投与を考慮したモデルへの応用を試みたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
年明けから年度末にかけて広く流行を続ける新型コロナウイルスの影響に伴って,成果報告,情報収集や研究打ち合わせのために予定していた国内外の研究出張が急遽キャンセルとなり,年度始めの研究計画を大幅に変更せざるを得なかった.次年度以降は,安全な渡航が可能となってからの研究出張経費や数値シミュレーションを行うためのワークステーションの購入経費などへ,未使用額を充てることとしたい.
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