研究課題/領域番号 |
19K14598
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
江夏 洋一 東京理科大学, 理学部第一部応用数学科, 講師 (90726910)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 微分方程式 / 自由境界問題 / 被食者-捕食者モデル / 時間遅れ / 安定性 |
研究実績の概要 |
被食者-捕食者モデルにおいて,単純な例として,一捕食者あたりの捕食量は被食者数のみに依存する場合が多く考えられてきた.この場合は,predator-free な平衡点の漸近安定性や共存平衡点の個数や安定性に関する分岐構造が,すでに詳しく調べられている.一方,一捕食者あたりの捕食量が被食者数だけでなく,捕食者数にも依存する場合も近年考えられている.その背景には,個体数の増加に伴う相互協力による採餌の円滑化がある.例えば,食虫性の熱帯鳥は,採餌を目的とした場合,単独でなく集団で行動することがしばしばで,集団行動に伴う餌の探索範囲の拡大によって個体ごとで採餌の効率化が促される.Berec (2010) は,こうした協力に基づく採餌の円滑化による捕食者のさらなる増加傾向を考慮すべく,一捕食者あたりの捕食量が捕食者数について狭議単調増加となる捕食項を提案し,採餌時の個体間の協力度合いを表す係数(協力係数)の増減が共存平衡点の個数に与える影響を調べている.後に,Alves, Hilker (2017) も,Berec (2010) と同様の採餌の円滑化に着目し,協力係数を含めた新たな捕食項を与えた上で,解の漸近挙動を数値実験により分類している.当該年度では,Alves, Hilker (2017) が実験的に与えた,協力係数を軸の一つとするパラメータ領域における解の漸近挙動の分類および maturation delay が長くなることによる共存平衡点の個数変化に対して,解析結果を得た.また,昨年度に言及した感染症の流行を記述した自由境界問題における進行波の存在・非存在に関してまとめた成果が,査読付き国際誌 Discrete and Continuous Dynamical Systems Series S に掲載された(10.研究発表,〔雑誌論文〕参照).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
被食者-捕食者モデルにおいて,捕食者の数が増えることで活性化される捕食者間の協力に基づく採餌行動が解の漸近挙動に与える影響については,解析的な結果が少なく,先行研究の多くが数値実験による検証でとどまっている.そうした中で,当該年度では,協力係数の増減に伴う解の漸近挙動の分類や maturation delay を表す時間遅れが共存平衡点の個数に与える影響に対して,具体的な解析結果を得ることができた.また,感染症の流行を記述した自由境界問題に関しても,感染個体と感受性個体の双方の拡散効果や移流効果あるいは潜伏期間の最中にある保菌者数などを新たに考慮した場合の進行波の存在・非存在について継続的に解析を進めている.以上の点で,本研究はおおむね順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
一捕食者あたりの捕食量が被食者数と捕食者数に依存する場合を考慮した被食者-捕食者モデルにおいては,環境収容定数が小さい条件の下で,「協力係数」と「被食者数の増加率の逆数」との大小関係によって共存平衡点の個数が決まることを明らかにできた.一方で,被食者数の増加率が大きい場合の Hopf 分岐による解の安定性変化や遅れを含めたモデルにおいて環境収容定数が大きい場合の解の安定性そのものについては未解明なことが多く,今後解析の見通しを立ててゆきたい.さらには,感染症の流行を記述した自由境界問題においても,感染個体と感受性個体の双方の拡散効果や移流効果などを新たに考慮した場合の進行波の存在・非存在の解析に向けて,これまでに得た解析手法の適用範囲を詳細に調べている.今後は解の時間発展に関する数値計算も行い,方程式の各パラメータの増減が進行波の存在・非存在に与える影響に関する定量的な評価を理論的考察につなげてゆきたい.
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