研究課題/領域番号 |
19K14602
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
兼子 裕大 日本女子大学, 理学部, 助教 (40773916)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 自由境界問題 / 正値双安定 / spreading / 定常問題 / テラス解 / semi-wave |
研究実績の概要 |
2020年度は生物種の侵入現象を表す自由境界問題に対して,(a)多次元球対称領域における正値双安定型拡散方程式の解の漸近挙動の分類と,(b)解の伝播過程に現れるテラス形状の解挙動の形態について研究した。ここで正値双安定項とは,0以外に2つの安定平衡点と1つの不安定平衡点を持つ非線形項である。本研究では生物種の個体数密度と生息領域の境界の2つを未知関数とする自由境界問題を解析し,生物種の伝播の様子や侵入前線の漸近速度を求める。なお,研究(a)-(b)は山田義雄教授(早稲田大学)と松澤寛准教授(神奈川大学)との共同研究である。 (a)については定常問題に現れる楕円型方程式に対して,シューティング法とLiouville型定理の組み合わせにより,解構造を詳細に調べた。その結果を用いて自由境界問題の解の漸近挙動をBig spreading(大発生),Small spreading(小発生),Transition(遷移状態),Vanishing(侵入収束)の4種に分類し,さらにsemi-waveを用いて侵入前線の漸近速度を求めた。ここまでは前年度の研究成果をまとめ,証明を点検した部分である。今年度は大発生の場合の未解決課題(ステファン条件に現れる係数がある閾値と等しい場合の漸近速度)を解決した。以上の結果をまとめて論文を投稿した。 (b)については,大発生の解の伝播過程で,2つの安定点を結ぶ進行波と小さな安定点に対応するSemi-waveの連結からなるテラス形状が現れることを示した(この解をテラス解と呼ぶ)。これは前年度に空間1次元で得られた成果の一般化と見ることもできるが,注目すべき点は侵入前線(テラス解下段)の速度とテラス解上段の速度の両方に,1次元の伝播速度と比べてlog(t)の定数倍の遅れが生じたことである。以上の成果について証明を詳細に確認し,投稿に向けた準備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題の目標は,[1]2次元以上の領域における生物の侵入現象を表す数理モデルに対して界面運動と伝播の仕組みを明らかにすること,[2]生物侵入モデルに対して反応項や拡散項が界面運動と伝播に与える影響について明らかにすること,[3]反応拡散方程式系で表される様々な現象における界面運動と伝播について比較・検討することである。2020年度までのそれぞれの達成度は,[1] 35%,[2] 75%,[3] 15% であるため,当初の計画よりやや遅れている。 2020年度は新型コロナウィルス感染拡大に伴う大学の遠隔運営や遠隔授業への対応に力を注いだため,当初の計画通りに研究を進めることができなかった。特に[1]では一般領域の解の漸近挙動について進展が得られず,[3]では文献調査の結果,比較対象となりうるモデルをいくつか見つけることができたが,選定には至らなかった。しかし,概要(a)-(b)で述べたように球対称領域に限定して,正値双安定型の自由境界問題の解挙動の分類やテラス解の仕組みについて着実に成果を得ることができた。一般領域における解挙動の概要は,球対称解の近似によって得られることが比較定理から期待できる。そのため,球対称解に関してこれまで多くの情報を蓄積できたことは,[1]-[2]の達成に向けてプラス要素になる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,まず[1]-[2]に関して概要(a)で述べた球対称解の漸近挙動と,概要(b)で述べたテラス解の形態について,必要なプロセスを経てそれぞれの論文の掲載を目指す。次に[1]に関しては,一般領域において解の漸近挙動を研究する。特に解の分類,十分条件,解の漸近速度について明らかにする。[2]に関しては,ディリクレ境界条件の元でテラス型の伝播現象が起こることを示す。[3]では引き続き文献調査を行い,研究対象を選定する。その上で界面運動と伝播に関する課題を挙げ,研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加予定であった国内外の国際会議が中止または延期となったため。延期となった国際会議のための旅費に当てる。また状況によっては,旅費以外に当てることも検討する。
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