研究実績の概要 |
2022年度は, 生物種の侵入現象を表す反応拡散方程式の自由境界問題に対して, 非線形項が正値双安定のとき, (a)球対称領域の場合, (b)一般多次元領域の場合について研究した。さらに, 反応拡散系の一種で生物の形態形成を表すGierer-Meinhardt系に対して, (c)シャドウ系に対する定常解の分岐構造と安定性, 最大値・最小値の漸近評価について研究した。なお, (a),(b)は松澤寛教授(神奈川大学)と山田義雄教授(早稲田大学)との共同研究であり, (c)は宮本安人教授(東京大学)と若狭徹准教授(九州工業大学)との共同研究である。 (a)については, 前年度の研究成果について, 証明の各部分を点検するとともに, 論文の趣旨が明確になるように再構成し, 投稿した。(b)については, 一般多次元領域の場合への(a)の結果の拡張に取り組んだ。まず, 時間無限大における解の漸近挙動を4種類に分類し, 次にBig spreading解のレベルセットについて, 自由境界に近い所と離れた所を比較して, 進行速度が異なることを示した。これはテラス型進行波の発生を示唆する結果である。この成果に関する論文を作成し, 投稿した。(c)では, 上記とは異なる反応拡散系に対して, 解の時空間的なパターンを調べた。具体的にはGierer-Meinhardt系に対するシャドウ系の定常問題に対して, スカラーフィールド方程式と, 対応する固有値問題を詳しく解析することによって, シャドウ系の定常解の分岐構造と安定性を示した。また分岐パラメータが0に近づく場合に, 解の最大値と最小値の漸近評価についても求めた。この成果に関する論文を作成し, 投稿した。 (a),(b)の研究成果について,日本数学会秋季総合分科会,第17回非線形偏微分方程式と変分問題,九州工業大学数理セミナーにおいて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目標は, [1]2次元以上の領域における生物の侵入現象を表す数理モデルに対して界面運動と伝播の仕組みを明らかにすること, [2]生物侵入モデルに対して反応項や拡散項が界面運動と伝播に与える影響について明らかにすること, [3]反応拡散方程式系で表される様々な現象における界面運動と伝播について比較・検討することである。2022年度までのそれぞれの達成度は, [1] 85%, [2] 100%, [3] 60% であるため, おおむね順調に進展している。 [1]については, 正値双安定項を伴う一般多次元領域での自由境界問題について, Big spreading解のレベルセットの比較によってテラス型進行波の発生を示唆する結果が得られた。[3]については, Gierer-Meinhardt系のパターンダイナミクスについて, 自由境界問題の伝播現象と比較することができた。
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