研究課題/領域番号 |
19K14607
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小林 浩二 東北大学, 金属材料研究所, 特任助教 (10711905)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | トポロジカル量子系 / 臨界現象 / 相転移 / 輸送現象 |
研究実績の概要 |
本年度は乱れのあるDirac/Weylセミメタルにおける臨界輸送特性、及び乱れのあるカゴメ格子量子異常ホール系における輸送現象について研究を行った。本研究で我々は、Dirac/Weylセミメタルにおいては乱れの存在下でも弾道的輸送特性が見られることを数値シミュレーションにより明らかにした。 これまでのDirac/Weylセミメタルの臨界現象の先行研究は、ほとんどがディラック点(厳密にE=0)における電子状態密度の数学的特性に注目したものであるが、本研究の特徴は電子波束の運動という輸送現象に注目した点、さらにその特徴をシミュレーションにより可視化したことである。これは乱れのあるDirac/Weylセミメタルの性質について明確で直観的な理解を与えるだけでなく、実験的観測も可能であると期待される。さらに弾道的伝導の速度の消失をスケーリング理論の式を用いて解析することで、相転移点、及び臨界指数を評価することにも成功した。これは金属-半金属転移の性質の解明に近づくのみならず、現実の物質としてのDirac/Weylセミメタルの特性の理解にも繋がる成果である。 乱れのある強磁性カゴメ格子系においては、磁化の向きを制御することで量子異常ホール相から拡散伝導相へと伝導状態を制御できる事を示した。この特性を応用し、磁壁構造を作ることで乱れに対し安定な巨大な磁気抵抗効果が起きることを提案した。強磁性カゴメ格子系はFe3Sn,Co3Sn2S2などが発見されており、この成果は、乱れのあるトポロジカル量子系が理論的興味の対象にとどまらず、スピントロニクス・デバイスへの応用にも重要な候補物質であることを示すものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
乱れたDirac/Weylセミメタルの研究については、弾道的輸送特性に注目するという独自性の高い挑戦的試みであったが、計算手法を工夫したことで当初の見込み以上に見やすく説得力のある結果が得られた。 強磁性カゴメ格子系は正方格子と異なり数値計算的には扱いづらい系であるが、再帰Green関数法のコードを改良することで効率的に伝導特性を調べることを可能にした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究で確立した弾道的輸送現象を解析する手法を他のトポロジカル量子系や異なる種類の臨界点に適用し、さらに既存手法とも比較する。また、磁場下における乱れたWeylセミメタルの性質についても詳しく調べる予定である。最終的には各普遍性クラスごとの値の差異が明確になる程度に精度の高い臨界指数を得て、トポロジカル相転移点の分類を行うことを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していた十分な性能のワークステーションを購入するには予算が不足していたため。次年度予算と合わせることで、高性能な計算機を購入する。
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