研究課題/領域番号 |
19K14609
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
伊與田 英輝 東海大学, 理学部, 講師 (50725851)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 固有状態熱化仮説 |
研究実績の概要 |
孤立量子系におけるゆらぎの定理の研究や、物理量の緩和時間・長時間平均に関する研究を行った。 孤立量子系におけるゆらぎの定理については、これまでの研究で熱浴の初期状態がエネルギー固有状態かつ時間発展がシュレーディンガー方程式に従う場合に、ゆらぎの定理を短時間領域の場合に示していた。本年度の研究で、長時間領域でもゆらぎの定理が成り立つことを固有状態熱化仮説に基づいて示した。これにより、全時間領域においてゆらぎの定理が成り立つ。長時間領域における議論では、ゆらぎの定理のずれの長時間平均や、その周りの時間ゆらぎの評価を行った。さらに、系統的な数値計算によってゆらぎの定理のずれ項のサイズ依存性を調べ、理論を検証した。 さらに、物理量の緩和時間についての研究を行った。先行研究では物理量の有限時間の時間ゆらぎに着目した不等式評価をすることで、局所的な物理量の緩和時間がサイズによらなくなることが示されているが、この証明が直接適用できるのは熱浴の初期状態がミクロカノニカル分布のようにその純粋度が小さくなる状況である。一方、先行研究における緩和時間の見積もりでは、初期状態・物理量・ハミルトニアンによって決まるエネルギーギャップの分布関数などの様々なファクターが現れるが、これらのファクターのそれぞれは固有状態熱化仮説の成立度合いと関係づいていると考えられる。そのため、これらのファクターのサイズ依存性を、初期状態が純粋状態の場合に様々な模型・物理量・初期状態について数値的に調べた。固有状態熱化仮説の観点からは、有限サイズ効果はハミルトニアンがランダム行列の場合と局所相互作用をする場合で同様だと期待されるが、いくつかの場合で異なる有限サイズ効果が得られた。これらの結果は、初期状態が純粋状態の場合の緩和時間を調べる上で重要なものであると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
物理量の緩和時間についての数値計算により、緩和時間を決めるファクターに関していくつかの興味深い結果が得られている。一方で、当初の目標としていた物理量依存性についてはまだ十分な検討が出来ていない。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に得られた物理量の緩和時間に関する数値計算結果を踏まえて、緩和時間についての物理量・初期状態依存性の研究を引き続き行う。さらに得られた数値計算結果を、先行研究の理論を踏まえて検討する。 また、それと並行し、量子情報量の長時間領域への緩和について調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの影響で検討していた出張を見合わせたため。また、他の物品を買う必要が出来、追加の計算機の購入計画を次年度に遅らせる必要ができたため。
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