前年度に引き続き物理量の緩和時間に関する研究を行った。先行研究では緩和時間の上限を与える表式が与えられており、システムと熱浴からなる系においていくつかの仮定の元でシステムの物理量の緩和時間がサイズに依存しないことが示されていた。特に、熱浴の初期状態がミクロカノニカル分布やランダムな純粋状態の場合にはサイズに依存しない。本年度は熱浴の初期状態が熱浴のエネルギー固有状態の場合を考え、ある種の時間に依存する非局所物理量についてのETHが成り立つならば、システムの物理量の緩和時間の上限が、熱浴の初期状態がミクロカノニカル分布の場合の緩和時間の上限に一致することを示した。実際にそのETHが成り立つことを確認するために一次元または非対称ラダー状のハイゼンベルク模型・横磁場イジング模型を対象にして数値的厳密対角化を用いた数値計算を行った。その結果、非可積分な熱浴では緩和時間よりも短時間領域および長時間領域の両方で、ETHの成立度合いを表す指標がサイズに対して指数減衰する結果が得られた。これはETHが成り立つことを意味している。また、指数減衰の冪の大きさが短時間領域と長時間領域とで異なり、長時間領域では冪が小さくなる傾向があった。一方、熱浴が可積分な場合や可積分点に近い場合には、ETHを満たさないこともあればETHを満たすこともあったが、有限サイズ効果が大きな領域であるため、この領域でETHを満たすかどうかを議論するにはより系統的な数値計算が必要であり、単なる数値的厳密対角化ではなく可積分性を利用した数値計算が必要であると考えられる。
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