研究課題/領域番号 |
19K14610
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田島 裕康 京都大学, 基礎物理学研究所, 研究員 (60757897)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 量子情報理論 / 保存則 / コヒーレンス / リソース理論 / 熱力学 / 量子熱機関 |
研究実績の概要 |
今年度は、保存則の元での測定・操作の制限について一般的な限界を解析し、量子計算と量子測定という、一見異なる二つの操作に共通して成り立つ漸近等式が存在することを突き止めた(論文投稿中)。この結果は、量子基礎論分野において古くから知られた結果であるWigner-Araki-Yanase定理の一般化および精密化であり、量子情報分野における最難関の国際会議であるQIP conferenceにおいて、talk presentationに採択された。 また、統計物理において近年注目されている、開放系のエネルギーフローと散逸のトレードオフ関係式であるcurrent-dissipation trade-offが、量子コヒーレンスによる影響を受けてどのように変わるかの定量的評価を行った(論文投稿中)。この評価法により、巨大なコヒーレンスが存在する場合にはcurrent-dissipation trade offが実質的に無効になり、散逸なしでのエネルギーフローが存在することを具体的に示し、さらにその応用として有限時間で動作し、かつカルノー効率を実効的に達成するエンジンを提案した。さらに、上記の「測定・計算・エンジン」という全く異なる状況に対する一連の結果は、実は共通する量子確率空間上の幾何学的構造に起因することを、全ての結果をただ一つの幾何学的不等式(「遠隔クラメルラオ定理」と命名)から導くことで示した。(論文準備中)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初4年間で実行する予定にしていた研究計画は、大きく分けて、 1 計算・測定の保存則からの限界を導く 2 1と、Speed-limit、Wigner-Araki-Yanase定理などの先行研究との間の統一的理解 3 量子熱機関のコヒーレンスによる性能増強を理解する 4 コヒーレンスやエンタングルメントによるセンサー増強の限界を理解する という4つのパートを考えていた。これらのうち、1は既に結果を取りまとめ、論文を投稿している。これは「研究実績の概要」の項目でも書いた通り、QIPにてtalk presentationとして採択され、現在注目される結果となりつつある。3は論文を投稿中であり、また当初の計画にはなかった熱的超伝導の発見や、それによる熱機関の性能の飛躍的増強など、当初の予定を超えた成果をあげつつある。そして2は、遠隔クラメルラオ定理により、3まで含めた統一的構造を明らかにすることに成功した。これも、現在結果を取りまとめて論文を準備しつつある。
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今後の研究の推進方策 |
現在、この研究計画は当初の予定をはるかに超えた応用を期待させる展開になりつつある。現在動かしつつあるプロジェクトとしては、まず熱的超伝導を実験室レベルで実現させるプロジェクトがあげられる。既に実験室レベルでは実現されている超放射とゼノエフェクトを組み合わせて行うことで、これが実現できるのではないかと考えている。もしこれができれば、実験室レベルで従来不可能とされてきた有限時間で動作するカルノーエンジンを実効的に実現できることになるかもしれず、期待は非常に大きい。また、光合成におけるコヒーレンスの役割の定量的理解など、生物物理への応用も期待できる。元々の研究課題として残っているセンサー増強の研究と並行して、これらも進展させていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、2020年3月にアメリカ出張を予定しており、この際に残額を使い切る予定を立てていた。しかし、新型コロナウイルスに伴う渡航制限により、この計画は実行不可能になった。このため、繰り越しの申請を行った。
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