本研究課題では,ランダムに設置されたノード間のユークリッド距離に応じて辺を設置する確率が変化するようなランダム幾何グラフと呼ばれるランダムグラフのクラスを扱った.ランダム幾何グラフは,アドホック無線通信ネットワークや人口分布を考慮した感染症モデル等で現れる.数理的観点では,ランダム幾何グラフはその次数分布が幾何構造を持たないErdos-Renyiランダムグラフと同等となる一方で,次数相関が生じる等の興味深い構造を有する.一方で,ランダムグラフやグラフ上の数理モデルの性質は限定的状況での確率論漸近解析や数値シミュレーションに依拠してきた. 本課題では,ランダム系の統計力学の手法,特に平均場近似に着目することで,ランダム幾何グラフやその上で定義される数理モデルの近似精度の良い解析手法を確立することを目指した.はじめに標準的なランダム幾何グラフモデルであるハードディスクモデルを包含する一般化ランダム幾何グラフを導入し,その次数相関を解析した.解析においては適当な近似のもとで次数相関を平均場近似的に導出し,その値が実際の数値シミュレーション結果とよく一致することを確認した.この解析は有限ノード数(グラフサイズ)においても有効であり,ノード数に応じて次数相関が変化するというランダム幾何グラフの特徴を再現するという特徴を有する.また,得られた次数相関の効果を取り入れた確率伝搬法を用いてランダム幾何グラフ上のノード故障モデルを解析した.漸近的な結果を得るのは困難であったが,得られた結果は有限ノード数でのシミュレーション結果をよく再現することを確認した.
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