研究課題/領域番号 |
19K14614
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
江端 宏之 九州大学, 先導物質化学研究所, 学術研究員 (90723213)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 粉粒体 / パターン形成 / 相分離 |
研究実績の概要 |
熱揺らぎの影響を受けない散逸粒子の集合である粉粒体では、異なる種類の粒子は機械的駆動力により相分離し、動的秩序を形成することがある。しかし、粉粒体の分離と構造形成を一般的に予測するのに必要な物理量は未だ明らかではない。本研究では粉粒体の相分離現象の水平加振実験系を構築し、分離による構造形成のメカニズムの解明を目指している。これまでの研究により、粒径の異なるガラスビーズとガラスフリットを水平加振した場合、バンド状の相分離構造が現れ、自己複製を含む様々なバンドダイナミクスが現れることが分かっている。粉粒体の流動がバンド形成を駆動していると考えられるため、今年度は高速度カメラを用いて水平加振による流動層のダイナミクスの詳細を測定した。ここでは、粉体層の流動の強さを評価するために、水平加振が誘起する表面波の振幅を計測している。測定の結果、大きいガラスビーズのみが流動している場合に比べ、ガラスフリットからなるバンドが形成している場合は表面波の振幅が小さくなることが分かった。次に、単一の粒子のみからなる粉体層に水平加振を加えた場合の表面波の加振周波数依存性を調べた。その結果、流動性の高いガラスビーズはより低い加振周波数から流動を始め、ヒステリシスをほぼ持たないことが分かった。一方、流動性の低いガラスフリットの流動状態は周波数の変化に対し非常に強いヒステリシスを持ち、同一の周波数条件下でも強く流動している状態と弱く流動している状態の2状態を取りうることが分かった。さらに、単一粒子の流動状態の周波数依存性と、2種粒子の相分離系でのバンドダイナミクスの周波数依存性の間に相関があることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度はガラスビーズとガラスフリットの粒径の組み合わせ、加振周波数を変えながらバンドダイナミクスの相図を作成した。2020年度はバンド形成、バンドダイナミクスの分岐のメカニズムを明らかにするために、バンドダイナミクスの相図に基づき、分離界面とバンドのダイナミクス、粉体層の流動の測定を行う予定であった。以上の予定を踏まえ、2020年度は高速度カメラを用いて分離界面形成が形成された状態での粉体層の流動の詳細な測定を行い、粉体層の流動とバンド形成のダイナミクスとの関係を調べた。ここでは加振周波数を連続的に変えながら水平加振によって誘起される粉体層表面の波の振幅に着目した。その結果、ガラスフリットの流動性が低いことを反映し、ガラスフリットからなるバンドの消滅・生成に合わせて表面波の振幅が増減することが分かった。粘度計を用いた粉粒体の粘度測定から、ガラスビーズとガラスフリットともに大きな降伏応力があることが分かっている。一方で、水平加振により流動を起こした場合、ガラスビーズは転がり摩擦が小さいため流動状態がヒステリシスを持たないことを示した。また、ガラスフリットは水平加振による流動でも強いヒステリシスを持つことが分かった。ガラスフリットの粒径がガラスビーズの粒径よりも大きく、粉体層表面に流動性が小さいガラスフリットの層が形成された場合、バンドが現れないことが分かっている。これは、粒子層のレオロジーがバンド形成に大きな役割を果たしていることを示している。2021年度の予定を繰り上げ、これら粉体層の流動・バンドダイナミクスの測定結果に基づき、粒径の違いに駆動された深さ方向の相分離と、表面波による粒子の巻き上げ、ガラスフリットの2状態流動を考慮した相分離パターンのモデルの作成を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、粒子の粒径差は深さ方向の相分離の強さに寄与していることが分かってきた。また、バンドダイナミクスの加振周波数依存性と粒径差依存性を比較することで、粒径差が大きすぎると相分離しにくくなることが示唆されている。高速度カメラを使用した粉粒体層の流動状態の測定から、ガラスフリッタの流動状態は相安定状態になっており、同じ実験条件でも初期条件に応じて高い流動状態と低い流動状態の両方を示すことが分かっている。さらに、バンド形成の初期段階の測定から、流動性の高いガラスビーズ表面層の流れにより、下層のガラスフリッタが巻き上げられ、ガラスフリッタが流動層中でさらに相分離することでバンドが形成されていることが示唆されている。今後の研究では、これらの実験結果に基づき、現象論的なモデルの作成を進める。具体的には、表面流動層中のガラスフリッタの量と、表面流動層の流動状態を変数としたモデルを作成する。これまでに得られた結果から、ガラスフリッタの量の時間発展に偏析によるガラスフリッタ量の減少と、巻き上げによるガラスフリッタ量の増加を導入する。表面流動層の流動状態については、ガラスフリッタの量に依存して2状態を取ることを仮定する。以上より反応拡散方程式様のモデルを作成することを考えている。次に、モデルのパラメーターを変えながら数値計算をし、相図を作成する。モデルと実験において、バンドダイナミクスの分岐点近傍の性質を比較することでモデルの検証を行い、分離現象に本質的な物理量を明らかにすることを目指す。
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