研究課題/領域番号 |
19K14616
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研究機関 | 山陽小野田市立山口東京理科大学 |
研究代表者 |
吉井 涼輔 山陽小野田市立山口東京理科大学, 共通教育センター, 講師 (30632517)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 真空構造の解析 |
研究実績の概要 |
本研究課題では形状効果(境界条件、次元など)と背景場の性質という2つの軸に加えて、場の相互作用による影響という3つ目の軸を加え、Casimir力の統括的理解に至ることを目的としている。また、相互作用によるCasimir力の制御方法の理解についても目的としており、2021年度は以下について研究を進めた。 【(1) 多体効果の存在下における真空構造の転移】量子多体効果の存在下においては真空が非自明な構造を持つことがある。去年度、非常に強い相互作用や非平衡性のある状況での真空構造の解析を行うためにHolographic超伝導の方法を用い、非一様な解を求めることに成功したが、今年度はそれをさらに拡張し、カレントが流れ、空間的に超伝導秩序の大きさが非一様であるような解を求めることに成功した。現在は同手法によって、ハミルトニアンの期待値を計算し、(自由)エネルギーを計算することにより、カシミール力を求める方法を開発している。また、スピン自由度がある場合のボソン系について、真空構造の解析を行い、あるパラメータ領域ではスピンゆらぎに対する真空構造の脆弱性が存在することを発見した。このような真空の脆弱性のある状況では、真空の構造を強く反映するカシミール力に関連した非自明な振る舞いが観られることが期待されるため、現在解析を進めている。 【(2) パラメータ変調による量子エンジンの提案】量子系においてパラメータを周期的に変調させた場合、一周期の変調後に元の状態に戻るが、その間に得た幾何学的位相がゼロとならない場合がある。そのような場合には非自明な粒子輸送やエネルギー輸送などが生じる場合がある。本年度は熱浴の変化による非自明なエネルギー輸送を調べた。この結果は熱浴の代わりに系の境界を考えることにより、カシミール力を用いた動的機関の提案に繋がると予想している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
去年度は強い相互作用の存在下、非平衡性、スピン自由度など様々なパラメータを導入した際の真空構造に関する解析方法の開発、習得などを行った。また、量子特有の性質であるエンタングルメントが系の挙動に及ぼす影響に関する研究も進めてきた。 Holographic超伝導の方法による、カレントの存在する状況での非一様な超伝導秩序の解の構成とその安定性に関する研究については論文が出版された。また、スピン自由度のあるボソン系における真空状態のスピン揺らぎに対する脆弱性に関する研究も論文が出版された。さらに、真空を伝わるエンタングルメント及びエンタングルメントの発生過程に関する論文も受理され、出版された(作成時点では出版されているが、年度としては2022年度)。 さらに、パラメータ変調の存在下における量子エンジンの提案については現在投稿中の論文が1編あり、さらにその拡張としてパラメータ変調で生じるエントロピー利得による量子エンジンの改良方法に関する論文を執筆中である。 以上より、真空構造の理解としては当初の予定以上に進展していると言えるが、カシミール効果の解析に向けてさらに解析手法の開発などを行う必要があるため、その面ではやや遅れており、総合的に判断して「研究はおおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
去年度は主に真空構造の決定や、真空を伝わるエンタングルメントの性質、エンタングルメントの発生、またスピン自由度のある状況での真空構造の脆弱性、外部ポテンシャル駆動の量子エンジンなど、真空の性質の様々な視点からの理解が進んだため、今年度はそれを足掛かりに本研究課題の主題である、様々なパラメータの導入によるカシミール力の系統的な理解を目指す。 具体的には、背景場にカレントと非一様性がある状況にトレーサー粒子を置いた状況を想定し、非一様性の変化する転移現象に対するカシミール力の挙動を調べるため、holographic超伝導の方法で自由エネルギーを計算する方法を開発する。また、非自明なエンタングルメント構造がある際にカシミール効果に対する定性的な変化が現れるかについて調べる。さらに、真空構造の変調によるカシミール力の変化を利用した量子機関の提案に向けて解析を行なっていく。 また、現在投稿中の論文については今年度の早い段階での受理、出版を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍における、国際会議の開催中止などにより、国際会議参加費用として計上した資金の執行が困難であり、次年度使用額が生じた。 今年度は国際会議や国内会議、国内での共同研究者との打ち合わせなどが可能であると期待されるため、主にそれらの用途に使用する予定である。
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