研究課題/領域番号 |
19K14619
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
高橋 淳一 早稲田大学, 理工学術院, 講師(任期付) (60732211)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 場の量子論 / ゼロモード / 物性基礎論 / ボース・アインシュタイン凝縮 / 冷却原子系 / ポーラロン / アルファ凝縮 |
研究実績の概要 |
本研究は非一様Bose-Einstein凝縮系におけるゼロモードの量子揺らぎに由来する物理的効果を解明することを目標としている。この目標を実現するため、2020年度は以下の課題に取り組んだ。 (1)アルファ凝縮模型を用いた16O原子核のHoyle様状態直上の励起スペクトルに関する研究。ゼロモード量子揺らぎは少数原子系において顕著となる。申請者らは12C原子核における励起スペクトルの解析をこれまで行ってきたが、本年度は16O原子核へと対象を移し、解析を行った。16Oは0_6^+ (15.1MeV)がHoyle様状態であり、この状態がアルファ粒子のBose-Einstein (BE) 凝縮状態である可能性が指摘されている。本研究では、この状態がBE凝縮状態であると仮定し、申請者らが提案したアルファ凝縮模型を用いて励起スペクトルの解析を行った。その結果、ゼロモード励起状態の存在により、現実的な半径の範囲内で、実験結果をよく再現することが明らかとなった。これは、16OのHoyle様状態がBE凝縮状態であることを支持している。 (2)冷却原子ポーラロンにおける媒介相互作用に関する研究。冷却原子系では原子ガス中に少数原子を埋め込んだ系が実現した。このとき少数原子は媒介となる原子ガスの存在により元の原子とは異なった性質を持つこととなる。これは結晶中の電子ポーラロンと似ているため、そのアナロジーからこの系もポーラロンと呼ばれる。異なる性質とは例えば、相互作用が挙げられる。元の原子は短距離型相互作用であるが、ポーラロンは長距離型の相互作用となるのである。本年度はこれらポーラロンの性質を衝突ダイナミクスという観点からより深く理解すべく、衝突ダイナミクスのシミュレーションを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は研究対象としてポーラロンとフェルミ超流動系におけるゼロモード問題を扱う予定であった。ポーラロンにおけるゼロモードの課題については量子ディプリーションという観点からアプローチすべく、前年度から前段階の理論を整備してきた。しかしながら、ゼロモード量子揺らぎを考慮したポーラロンの自己無撞着方程式が煩雑であることに加え、明確な自由度の分離が困難であることから当初のアプローチは断念した。そこで、方針を変更し、本年度は媒介相互作用にゼロモード量子揺らぎの影響が現れないか検討を始めた。計画の修正に伴い、本年度はゼロモードを考慮する以前の定式化に終止した。一方、原子核のアルファ凝縮模型に関する研究が進展した。こちらは当初研究課題として挙げていなかったが、Hoyle様状態研究が盛んに進んでいる現状を鑑みて研究課題に加え取り組んだものである。本年度では16Oのみならず、20Neなどの原子核における解析を進めており、発表準備を進めている。その分、当初行う予定であったフェルミ超流動系のゼロモード量子揺らぎの解析は次年度に繰り越している。 以上より、研究計画の修正に伴う遅延と予定外の研究を優先したため、当初予定した研究の実施が遅れていると言える。一方で、予定外であるアルファ凝縮系の研究は大きく進展していることから、計画はやや遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、(A)アルファ凝縮模型を用いた原子核エネルギースペクトルの解析(B)フェルミ超流動におけるゼロモード量子揺らぎの解析を主要課題とする。前者の(A)については(A-1)20Neにおける解析と、(A-2)非等方性を考慮した12C原子核における解析を行う。20Neは最近実験が行われ、5アルファ凝縮状態の候補が特定され始めている。その上のエネルギー準位については今後の実験が期待される。そこで、申請者らは実験に先んじて理論で予言を行う。具体的には、12Cと16Oから想定されるrms半径を入力パラメータとし、エネルギースペクトルの解析を行なう。非等方12Cは今まで計算の簡便さを優先し、球対称性を仮定してきた計算をアップデートするものである。 後者の(B)については以前より行ってきたボソン超流動系の理論をフェルミ系に拡張するものである。申請者らが提案したゼロモード量子ゆらぎの理論はボソン系にのみ使える方法であり、2体チャンネルにゼロモードが現れる系にそのまま適用できない。申請者らは、まず、フェルミオン場の席に対する補助ボソン場を導入することでボソン系の理論をそのまま流用することが可能か検討する。また、計算が低コストであるボソン系とは異なり、フェルミ系では数値計算が高コストとなる。計算については残りの予算でワークステーションを導入し対応する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は新型コロナウィルス蔓延のためほとんど全ての研究会がオンライン開催となった。そのため、旅費の使用分がほぼゼロとなった。また、研究室立ち入り禁止期間が長く続き、計算コストがかかる課題を後ろ倒しにした。そのため、計算機の速度向上に使う予定であった予算を繰り越した。次年度もオンライン会議の増加により、2020年度ほどではないが、例年よりも出張費が抑えられると予想される。一方、非等方原子核におけるゼロモード解析にワークステーションが必要となる見込みである。そこで、最終年度は繰越分と出張費削減分を合わせてワークステーションの購入に予算を使用する予定である。
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