開放量子系の緩和ダイナミクスについて厳密な結果を得るべく研究を進めた。長時間後の緩和の仕方を特徴づける重要な量として、リウビリアンギャップが知られている。しかし、量子多体系においては、リウビリアンギャップが緩和を支配する長時間領域に到達するまでの時間があまりに長いため、むしろ過渡的領域での緩和の仕方を特徴づけることが重要となる。今年度は、過渡的領域での時間相関関数の緩和率の厳密な下限が、「対称化リウビリアンギャップ」という新しい量で特徴付けられることを明らかにした。対称化リウビリアンギャップの重要な性質として、散逸ダイナミクスが詳細釣り合いを満たす平衡環境下では通常のリウビリアンギャップと等しく、一方、詳細釣り合いを破る非平衡の状況では通常のリウビリアンギャップよりも小さくなることを示した。この研究は、散逸を伴う量子ダイナミクスの新しい特徴を明らかにするものである。 研究期間全体を通して、量子多体系を外場駆動や散逸によって非平衡にドライブしたときのダイナミクスの性質の理解を深めることができた。これまで得られた主な成果を挙げると、(1)量子多体系のエネルギー固有状態の性質(固有状態熱化仮説)と、それに弱い散逸が働いた時に実現する非平衡定常状態との関係を明らかにしたこと、(2)マルコフ開放量子系においてリウビリアンギャップと緩和時間の間に不整合が存在することの指摘とその説明、(3)散逸下での準安定状態の新しい特徴づけ、(4)準周期外場のもとでのエネルギー吸収率の非自明な振動数依存性の導出、(5)速い振動外場のもとでのエネルギー吸収率についての線形応答公式の非線形領域への拡張、(6)有限時間領域での緩和率の下限を与える対称化リウビリアンギャップの導入、となる。これらはいずれも、散逸や外場のもとでの量子多体系の定常状態および緩和時間の新しい性質を明らかにするものである。
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