研究課題/領域番号 |
19K14623
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
森川 大輔 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (10632416)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 収束電子回折 / ナノ電子プローブ / 界面誘起強誘電性 / 局所構造解析 / 大角度ロッキング |
研究実績の概要 |
本研究では,界面誘起分極構造の発現機構の解明を目指し,ナノ電子ビームを用いた収束電子回折法による高精度電子密度分布解析手法の開発とその応用を行っている.発現される分極構造は微小な変化によるものと考えられるため,界面近傍での高精度解析手法の確立がまず必要である.そこで本研究では,ビームロッキングによる電子回折図形を用いた解析を試みた.テストケースとして軌道整列物質を用いた.軌道整列とは,主に遷移金属酸化物の3d電子において,特定の軌道が選択的に占有される現象であり,これによってごくわずかに電子雲に偏りが生じると考えられる.高精度解析の指針として軌道整列を用いた理由は,軌道散乱因子を用いることで仮想的な軌道整列および非整列をシミュレート可能であることによる.軌道整列状態を用いたシミュレーションデータにノイズを導入することで仮想的な実験データとし,このデータの解析をさまざまなロッキング角に対して行い,得られた解析結果の精度を検証した.また結晶中での電子線のBloch状態解析から,軌道整列の寄与の大きなBloch波を明らかにすることで,逆空間のどの領域に軌道整列に伴う差異が観測されるか,また実空間でどのように分布しているかを明らかにした.この解析を通して,解析精度とロッキング角の関係とその起源が明らかになった.現在,ビームロッキング機構の導入および調整を続けており,まもなく実際の実験データ取得が可能になる予定である. 界面誘起分極構造として,CaTiO3の界面近傍からの収束電子回折図形の取得を試みた.その結果,界面から約1nm程度の狭い領域において,結晶の中心対称性の破れに起因すると思われる,収束電子回折図形の対称性の破れを観察した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
軌道散乱因子を用いることで仮想的な実験データの生成およびその解析が可能である,軌道整列物質をテストケースとして用いることで,ビームロッキングによる解析精度向上が明らかになり,その際に用いた仮想実験データとの相関から、求められる実験データの質を決定する指針を得た.また,研究室所有の装置にビームロッキング機構が導入され,テストデータの取得を試みている段階である.次年度では解析に耐えうる実験データの取得を行う. また,界面誘起分極構造を示すCaTiO3において,界面のごく近傍でのみ中心対称性の破れた収束電子回折図形の取得に成功した.現在,特にTiの原子変位に注目して,定性的な解析を行っている.今後,ビームロッキングを用いた電子回折図形の取得およびその解析を試みる.
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今後の研究の推進方策 |
導入したビームロッキング機構の調整を進め,ナノメータスケールの領域からのロッキング電子回折図形の取得を試み,そのデータ解析を進める.まずはすでに軌道散乱因子を用いたシミュレーションやその解析が行われた,軌道整列物質に適用し,実際の実験データでも同等の解析精度が実現できるかを確認する.つづいて,界面誘起分極構造を示すCaTiO3の界面近傍の解析を目指す.まずは,Tiのオフセンタリングに起因する中心対称性の破れを,原子変位を変えた様々なシミュレーションから,定性的に評価する.つづいて,ビームロッキングによる電子回折図形の取得を試みる.ここで,界面近傍の解析のためには,ビームロッキング時のプローブ位置の調整や補正が重要となるが,1nmの領域からのデータ取得を目指す.その後この実験データを用いて,高精度電子密度分布解析を行う.この1nmの領域からのデータ取得が可能になれば,界面からの距離を変えたデータをそれぞれ取得し,界面からの距離による電子分極の変化を明らかにすることを目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に新型コロナウィルスの影響で出張が取り止めとなったため. 次年度では引き続き,実験のための旅費,電子顕微鏡実験用の消耗品や共通機器の使用料などで使用する.
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