研究課題/領域番号 |
19K14624
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
玉谷 知裕 東京大学, 物性研究所, 特任研究員 (20633697)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 高次高調波発生 / ポンプ・プローブ分光法 / フロッケサブバンド / 動的局在 / トンネル効果の凍結 / プラトー形成機構 |
研究実績の概要 |
本研究は、高強度光照射下の半導体から発生する高次高調波の性質を、従来の3ステップ模型とは異なる視点から考察することを目的としている。これにより、これまで見落とされてきた高次高調波の新たな側面を見出すと共に、他の高強度光物理現象との関係性を明らかにできるものと期待される。R1年度は、高強度THz光と弱強度のNIR光を同時に半導体に照射した際に生じる高次高調波(高次のサイドバンド生成)についての理論を構築した。本手法はTHzポンプ・NIRプローブ分光法とみなすことができ、発生した高次高調波のNIR光周波数に対する依存性を論じることで、高次高調波の発生機構を明らかにできるものと期待される。数値計算を行なった結果、THz光強度が大きくなるにつれて、バンド構造の内側から外側に向かって、THz光の整数倍の周波数をもった新たなフロッケサブバンドが形成されていることを発見した。理論解析の結果、価電子帯からフロッケサブバンドへの励起確率は、THz光強度に対し非単調な振る舞いを示すことを証明した。これらの現象はバンド構造が高強度THz光によって時間と共に振動することから生じる物理現象であることも示した。さらにこのフロッケサブバンド描像を基礎に、従来の3ステップ模型とは異なる視点から高次高調波のプラトー形成機構を示し、動的局在やトンネル効果の凍結を初めとする他の高強度光物理現象との関係性を明らかにした。これらの成果はPhysical Review B誌にRapid Communicationsとして掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は当初の予定通り、半導体における高次高調波の発生機構をポンプ・プローブ分光法で解析するための理論を構築した。そしてその結果、3ステップ模型とは異なる視点から高次高調波のプラトー形成機構や他の高強度光物理現象との関係性を明らかにすることができた。さらにこれらの成果を論文にまとめ学術誌に掲載することもできた。以上のように、当初の予定通り、本研究に関して順調な進展が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、本年度に得られた高次高調波発生に関する知見を基礎に以下の2つの研究を推進する。 ①GaAsにおける実験結果の解析:GaAsから発生する高次高調波の強度依存特性に関する実験結果を解析する。上記考察に基づけば、GaAsから発生する高次高調波のTHz光強度依存性には非単調な振動構造が生じるものと推測される。この傾向を確認することで、これまでの研究成果の実験的論証が得られるものと期待される。 ②ベリー位相を用いた非線形光学理論の構築;従来のベリー位相の概念を拡張し、複数バンドの重ね合わせ状態にあるブロッホ電子に適用することで、ベリー位相非線形光学の理論体系の構築を試みる。このことにより、ベリー位相分極理論を構築する際の足がかりが得られるものと期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に出席する予定であった国際会議がコロナウイルスの影響で中止になったため、予算の消化が不可能になった。次年度は複数の国際会議への出席に加え、新たなPC機器の購入に予算を当てる予定である。
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