前年度の研究で見られた超伝導増強の兆候をより詳細に調べるため、本年度は引き続き鉄系超伝導体FeSe0.5Te0.5薄膜の光照射下でのテラヘルツ周波数帯光学伝導度測定を行った。まず、超伝導転移温度以下での超伝導増強を示唆するテラヘルツ第3高調波発生の増大が観測された近赤外光励起の条件において、超流動密度を反映する光学伝導度虚部の発散成分が瞬間的に増大することを確かめた。瞬間的な超伝導増強ののち数ps以内に金属的な状態へと変化し、長時間のダイナミクスでは電子格子系の熱化を観測したと考えられる。全体のダイナミクスは第3高調波発生とよく一致し、近赤外光励起状態下において第3高調波発生と光学伝導度の両方の測定で超伝導増強が示唆されたといえる。ここで超伝導増強のメカニズムは光注入された伝導電子そのものの応答としては理解できず、光キャリア注入によって例えば超伝導に寄与する相互作用が変調されたことに由来するのではないかと考えられる。超伝導増強の機構を明らかにするためには関与するバンド間遷移やフォノンの影響を調べることが重要であり、励起光の波長依存性を調べることが肝要であると考えられる。そのため、近赤外の800 nmから2 μm程度までの波長可変光源を励起光として用いてテラヘルツ光学伝導度の測定を行い、大まかには同様の変化が得られることがわかった。しかし今回の測定で用いた波長の範囲は限られており、今後より広帯域の励起光波長依存性を調べることが必要である。特に、長波長側の中赤外光領域を調べることでバンド間遷移などの電子励起とフォノンの寄与を区別できることが期待される。
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