研究課題
本研究課題では、金属相や相転移を示す材料の相転移点近傍での、高強度光駆動によって誘起される電子ダイナミクスおよび非線形光学応答の理解を目指した。この目的のため温度依存性を測定可能な反射型高次高調波検出系を構築し、2次元層状物質に加えて、これまで調べられてこなかった金属やモット絶縁体・電荷秩序系における高次高調波の特性を調べた。従来調べられてきた半導体試料においては、励起条件を調整することで物質の電子構造と直接対応した高次高調波特性が得られ、そこから電子構造の取り出しが行えることを示した。また、金属では入力光電場が大きくなるにつれて、電子間散乱のチャネルが増えることに起因して高次高調波の非線形特性が決定されることや数千Kに到達する高温の電子が電子間散乱によって光励起後に作られることを明らかにした。これらの知見をもとに、電子相関の強いモット絶縁体Ca2RuO4において高次高調波特性の温度依存性を調べた。結果として、高次高調波の発生効率が温度に大きく依存し、室温から50Kまで冷却することで最大数百倍も増幅することが分かった。この温度依存性をギャップエネルギーの温度依存性を利用してギャップエネルギーに対する変化としてマップすると、高次高調波の発生効率がモットギャップエネルギーに対して指数関数的に増大することが分かった。従来の半導体では高調波発生効率の温度依存性は小さく、発見した法則は強相関電子系ならではの非平衡電子ダイナミクスを反映していると期待される。しかしながら、発見された法則がモット絶縁体やその他の強相関電子系で普遍的なものなのかや微視的な起源はまだ明らかになっていない。この解明には組成の異なる試料での系統的な実験や、理論研究との協同などが求められる。微視的な起源が解明できれば、新たな非線形光学材料の設計指針を与える可能性がある。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
Physical Review Letters
巻: 128 ページ: 127401
10.1103/PhysRevLett.128.127401
AIP Advances
巻: 12 ページ: 045309~045309
10.1063/5.0086398
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2022-03-28