研究課題
本研究の目的達成のためには、ドット間の結合をゲート電極に印加するパルス電圧で高速に制御する必要があるが、前年度に作製した既存の試料では制御性に問題があることが分かった。今回の測定からこの問題を改善する試料設計を明らかにしたが、新型コロナウイルスの影響もあり新しく試料を作製し直すことはできなかった。そこで本年度は、既存の試料を用いて本研究の主題である、量子計算の基盤技術の高性能化に取り組んだ。具体的には、2つの異なるアプローチで量子計算の基本操作である2量子ビット操作の高性能化を実現した。既存の2量子ビット操作の主な問題点は、操作忠実度が低いこと、および量子ビット間の結合のオンオフ比が低いことの2点である。まずは操作忠実度の改善に取り組んだ。これまでの研究における2量子ビット操作忠実度の制限要因は、コヒーレンス時間に対して操作速度が遅いことであった。本研究では従来比10倍の大きな2量子ビット間の結合を実現することに成功し、操作を高速化することで2量子ビット操作の高忠実化を行った。ランダム化ベンチマーク法で操作忠実度を評価したところ、量子誤り訂正閾値以上となる99%以上の操作忠実度を初めて達成した(論文準備中)。次に結合のオンオフ比の改善に取り組んだ。量子ビットの結合の制御方法の主流は隣接量子ドット間のトンネル障壁をゲート電圧で制御するというものであるが、この手法ではオンオフ比が100以下程度に限られてしまっていた。そこで本研究では、3重量子ドット中の2電子スピンに着目し、2電子が両端のドットにいる場合をオフ、端と中央のどっとにいる場合をオンとする新しい量子ビット間の結合の制御手法を開発した。この手法でオンオフ比10000を達成することに成功し、また2量子ビット操作としての動作原理検証も行った(論文準備中)。以上の成果から、2量子ビット操作の高性能化に対して新しい指針を与えた。
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