研究課題/領域番号 |
19K14641
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
福岡 脩平 北海道大学, 理学研究院, 助教 (80746561)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 分子性固体 / 誘電性 / 磁性 / 超伝導 / 核磁気共鳴 / 熱測定 |
研究実績の概要 |
初年度は磁性アニオンを導入したλ-(BEDT-STF)2FeCl4の磁気状態の解明、磁性アニオンと非磁性アニオンの混晶系である、λ-(BEDT-STF)2FexGa1-xCl4の基底状態の混晶比依存性の研究に主に取り組んだ。 λ-(BEDT-STF)2FeCl4について、熱容量測定から3d電子のスピン自由度に由来した、ショットキー型の熱異常が転移温度以下で観測されることを見出し、λ-(BETS)2FeCl4で発見され長年議論されている、転移温度以下での3d電子スピンの常磁性的挙動がλ型塩に共通して観測される普遍的な性質であることを示した。また、13C NMR測定から、dimerに局在したπ電子スピンとFeCl4に局在した3d電子スピンが16 Kで同時に反強磁性秩序化すること、ショットキー型の熱異常が観測される温度域で、π電子スピンと3d電子スピンが異なる磁化過程を示すことを明らかにし、この異なる磁化過程が常磁性的挙動の発現の鍵となっていることを提案した。 混晶塩について13C NMR, 57Fe メスバウアー測定、熱容量測定から調べた。その結果、3d電子スピンの常磁性的挙動、π電子スピンと3d電子スピンの異なる磁化過程が全濃度範囲で観測されることを見出した。また、混晶比に比例するように3d電子スピンの受ける内部磁場が変化すること、反強磁性転移が低濃度領域まで観測され、わずかなFeの導入が劇的に反強磁性秩序を安定化させることを明らかにした。この結果はλ-(BETS)2FexGa1-xCl4を対象とした先行研究ではFe濃度の減少によって生じるπ電子系の金属化によって調べることが出来なかった低濃度領域での測定を、絶縁性の高いλ-(BEDT-STF)2FexGa1-xCl4を用いることで実現したことで得られた磁気状態への新たな知見である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度内でλ-(BEDT-STF)2FeCl4及び混晶系であるλ-(BEDT-STF)2FexGa1-xCl4の磁気状態の研究は一通り遂行することができた。得られた結果から、温度-混晶比の相図を完成させるとともに、常磁性的挙動を特徴づける相互作用として3dスピン間の直接的な相互作用が重要であるという新たな知見を得ることが出来た。これらの成果は国内外の学会で発表を行っており、論文は1報掲載決定、1報が査読中、3報が投稿準備段階にある。また、混晶系の研究で明らかとなった、わずかなFe の導入による反強磁性秩序の安定化は当初の計画にはなかった予想外の結果であり、新たな研究展開につながる重要な成果といえる。 当初の計画とは異なり、初年度は磁気状態の研究を優先的に進めたため、dimer内電荷自由度についての研究は計画からはやや遅れている。しかし初年度中に誘電率測定装置の整備を終え、予備実験によってλ-(BEDT-STF)2FeCl4においてdimer内電荷自由度に起因すると考えられるリラクサー的な誘電異常の検出までは成功している。2年目以降は誘電率測定の本測定に取り組むとともに、誘電異常の微視的起源の解明に向けたNMR、NQR測定等を駆使した研究を本格的に開始する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
2020年度はdimer内電荷自由度に起因する誘電応答現象の探索と起源解明に向けた研究を本格化させる。具体的にはλ-(BEDT-STF)2FeCl4、λ-(BEDT-STF)2GaCl4、λ-(BEDT-STF)2FexGa1-xCl4混晶系について誘電率測定を行う。これまでに観測に成功しているリラクサー的な誘電異常について分子置換効果や圧力効果などを調べることでその発現条件を明らかにする。また、λ-(BEDT-STF)2FeCl4については、3d電子スピン系の磁性とdimer内電荷自由度に起因する誘電応答の相関について検証する。具体的には磁場下での誘電率測定、焦電効果測定を行うことで、反強磁性秩序化に伴う誘電異常の発現、3d電子スピン系を磁場で制御することで誘電特性が変化する磁気誘電現象の探索を行う。さらにNMR、NQR測定を駆使することで、誘電異常の微視的な起源解明を試みる。 また、当初の計画通り、λ型塩の相図において超伝導相と反強磁性相の間に存在する中間相の電子状態の解明に取り組む。常圧で中間相に位置するλ-(BEDT-STF)2GaCl4を対象に圧力下13C NMR測定を用いて電子状態の変化を連続的に調べることで、中間相の発現機構と電荷自由度との関係、隣接する超伝導相との関係について検証を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画と異なり、λ-(BEDT-STF)2FeCl4、λ-(BEDT-STF)2FexGa1-xCl4混晶系の磁気状態の研究を優先的に行ったため、NMR測定や誘電率測定、圧力下測定で使用予定であった消耗品を購入しなかった。これらの研究は次年度に行う予定であり、未使用分はその際に使用する。
|