研究実績の概要 |
今年度は混晶塩λ-(BEDT-STF)2FexGa1-xCl4の鉄濃度が極端に低い試料の磁性について、69/71Ga,13C NMR, μSR測定から調べた。その結果、x=1の試料において16 Kで観測されていた反強磁性転移がx = 0.1では7 K付近で観測されるが、x= 0.05では4 K以下に急激に抑えられることを見出した。これはわずかなπ-d相互作用の導入が抑制されていた反強磁性秩序を劇的に安定化させることを示している。この結果は理論研究の結果ともよく一致しており、π-d相互作用による磁気秩序の安定化過程を実験的に明らかにした点に意義がある。また、鉄濃度-温度相図において、反強磁性転移温度の相線をx = 0まで延長した場合、x = 0で4 Kに漸近することが分かった。λ-(BEDT-STF)2GaCl4は反強磁性転移を示さず、4 K以下で磁気揺らぎが抑えられることのみが分かっていたが、本研究の結果は 4 Kの異常が鉄高濃度側の磁気転移と関係していることを示唆しており、λ-(BEDT-STF)2GaCl4の基底状態の解明に繋がる重要な成果といえる。 研究期間全体を通しての成果として、λ型塩におけるリラクサー挙動の観測に成功し、さらにリラクサー挙動が観測される温度域がドナー置換によって系統的に変化することを見出した。この結果はダイマー内電荷自由度による誘電性の制御的利用に繋がる重要な成果といえる。次にλ型塩の電子状態の研究については、混晶塩λ-(BEDT-STF)2FexGa1-xCl4の鉄濃度-温度相図を完成させ、π-d相互作用と基底状態の関係、特異な磁性の起源を解明するとともに、λ-(BEDT-STF)2GaCl4の未解明な基底状態の解明に繋がる知見を得た。今後はλ-(BEDT-STF)2GaCl4の基底状態解明に向けた研究を継続して行っていく予定である。
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