研究実績の概要 |
2019年度では(1)Th金属原料の純良化と(2) Th3Ni3Sn4の単結晶育成を以下の通り行った。 (1)Th金属原料の純良化:Th金属原料のアニールを試みた。条件は900℃を超高真空中で6日間とし、表面の酸化膜と思われる黒いものはかなり減り、見た目は良くなっていた。準良性の指標としていた残留抵抗値ρ0は約9 μΩcm程度とアニール前に比べて半減していたが、残留抵抗比RRRは4.9でほとんど変化はみられなかった。 (2) Th3Ni3Sn4の単結晶育成:同じ研究グループのA. Maurya氏らがU3Ni3Sn4の純良単結晶育成に成功し、その物性とフェルミ面を明らかにした。結晶構造はY3Au3Sb4型の立方晶(#220, I-43d, Td6)で空間反転対称性が破れていることによって現れる反対称スピン軌道相互作用によるフェルミ面の分裂が明瞭に観測された。本研究では同じ結晶構造でトリウム化合物のTh3Ni3Sn4に着目した。Th3Ni3Sn4は1992年にY. Aoki氏らによって多結晶試料で超伝導物質であることがすでに報告されているが、これまで単結晶での報告は無い。本研究では単結晶を育成し、より詳細な物性を明らかにすることを試みた。すると、ブリッジマン法でTh3Ni3Sn4の単結晶を育成することに初めて成功した。その単結晶を用いて電気抵抗および比熱測定を行った。電気抵抗は、室温から低温にかけて緩やかに減少しd電子系特有の肩をもつような振る舞いを示した。電気抵抗と比熱の結果から明瞭な超伝導転移を観測することができ、超伝導転移温度Tcは約1.39 Kと過去の報告(1.38 K)とほとんど同じである。ρ0は約39 μΩcm、RRRは約8で電子比熱係数γ=35.9 mJ/(K2mol)であった。今後、異方性の有無などを詳細に調べていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は年度途中に育児休業から復帰し、以下のように進めていく予定である。 2019年度に引き続き、ブリッジマン法で育成されたTh3Ni3Sn4の単結晶を用いて、電気抵抗、比熱およびdHvA測定を試みる。それと並行して、育成方法が確立されている物質での試料育成を試みる。具体的には、ThT2(Si, Ge)2、ThT(In, Ga)5 (T: 遷移金属)等の物質をGa、In、Sn、Pb、Sb、Biの低融点金属を用いたフラックス法での育成を試みる。すでにThCu2Si2の純良単結晶の育成に成功しているため期待できる。 また、引き続き結晶構造に着目したトリウム化合物の育成にも挑戦する。例えば、空間反転対称性の破れた結晶構造をもつTh3P4型(空間群:#220、I-43d)、偽カゴメ格子をもつZrNiAl型(#189、P-62m)、局所的に反転対称性の破れたジグザグ格子をもつ直方晶TiNiSi型(#62、Pnma)に分類される物質等を探索し育成する。具体的には、Th3P4、Th3As4、 Th7T3、ThTX (X: Al, Sn, Ga, Sb, Sn)などがあげられる。 以上の計画で、単結晶育成については時間を要するうえに化合物によっては育成が難しい可能性もある。そのため、比較的作成日数が短い多結晶試料をアーク溶解で作成し、早急に試料の評価をする必要がある。また、トリウム化合物に限らず、同じ結晶構造をもつウラン化合物や希土類化合物なども育成し比較する。 上記で育成された単結晶試料をX線回折測定装置で構造解析を行い評価し、精密物性測定を行う。得られた成果を学会や論文等で発表する。
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