研究実績の概要 |
2020年度では主にUNi5の単結晶試料による物性測定、ThCu2Si2の論文発表を以下の通り行なった。 UNi5は立方晶AuBe5型(空間群:F-43m, Td2, #216)の結晶構造であり、結晶構造に空間反転中心を持たないためエネルギーバンドの縮退が部分的に解けることによるフェルミ面の分裂が期待される。この物質は、電子比熱係数γ=300mJ/K2molと重い電子状態として知られているUCu5、また最近、我々の研究グループがフェルミ面を明らかにしたUPt5と同じ結晶構造を持っている。UNi5はこれまで多結晶での報告しかなく、引き上げ法で初めて単結晶の育成に成功した。電気抵抗の温度依存性は、室温から0.4 Kまでは磁気転移もなく、ほぼ単調に減少する振る舞いを示す。また、残留抵抗比RRRは18であった。フェルミ面を明らかにするためにドハース・ファンアルフェン測定を行なった。試料の純良性を反映してドハース・ファンアルフェン振動を観測することができた。しかしながら、小さなフェルミ面しか観測できていない。試料の純良性が低いために全てのフェルミ面が観測できなかったことが考えられるため、さらに純良な単結晶を育成する必要がある。 また、これまでの研究でThCu2Si2の純良な単結晶育成に成功し、ドハース・ファンアルフェン測定の結果とバンド計算の比較によってフェルミ面の詳細な形状を明らかにすることができた。それと同時に、Thに無いはずの5f電子の部分状態密度がフェルミ面に寄与していることが示唆された。これらのことをまとめて論文発表した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、トリウム化合物のフェルミ面と超伝導特性について明らかにするために、トリウム化合物の単結晶育成について取り組む。具体的には以下の内容で進めていく。 (i)まずは育成方法が確立されている物質を対象に育成を試みる。具体的には、ThT2(Si, Ge)2、ThT(In, Ga)5 (T: 遷移金属)等の物質をGa、In、Sn、Pb、Sb、Biの低融点金属を用いたフラックス法での育成を試みる。すでにThCu2Si2の純良単結晶の育成に成功しているため期待できる。 (ii)並行して育成方法が確立されていない物質についても取りかかる。引き続き結晶構造に着目したトリウム化合物を対象とする。空間反転対称性の破れた結晶構造をもつTh3P4型(空間群 No. 220, I-43d, Td6)、偽カゴメ格子をもつZrNiAl型(No. 189, P-62m, D3h3)、局所的に反転対称性の破れたジグザグ格子をもつ直方晶TiNiSi型(No. 62, Pnma, D2h16)に分類される物質等を探索し育成する。具体的には、Th3P4、Th3As4、 Th7T3、ThTX (X: Al, Sn, Ga, Sb, Sn)などがあげられる。 上記で育成に成功した単結晶試料は、それぞれX線回折測定装置を用いて構造解析で評価し、電気抵抗、比熱、磁化、ドハース・ファンアルフェン効果の実験などの物性測定を行う。さらに、必要があれば高圧力下での実験や神戸大学の播磨尚朝教授の協力を得てバンド計算との比較を行い詳細な電子状態を明らかにする。これまでの経験を生かし、また東北大学金属材料研究所の青木大教授の研究グループの協力を得て研究を進めていく。本研究で明らかになったことは、国内外の研究者との議論、国内での学会発表や国際会議、プレス発表などでアウトプットする。
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