研究課題/領域番号 |
19K14646
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
原口 祐哉 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70808667)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | キタエフ模型 / 磁性体 / スピン軌道相互作用 / 低温合成 / 新物質 |
研究実績の概要 |
当該年度には、ハニカム格子α-Li2IrO3およびNa2IrO3、さらにハイパーハニカム格子β-Li2IrO3についての複分解反応による新物質合成を行い、その基礎物性を測定した。 ハニカム格子α-Li2IrO3と塩化カドミウムとの複分解反応により、新しいイルメナイト型イリジウムハニカム格子磁性体CdIrO3の合成に成功した。Jeff=1/2の電子状態から大きく乖離した有効磁気モーメントとキタエフモデルから外れる強い反強磁性相互作用を持つことがわかった。また、ZnIrO3、MgIrO3、CdIrO3の三種のイルメナイト型イリジウムハニカム格子磁性体において、磁性と構造の関係性を考察した結果、三方晶歪によってJeff=1/2とJeff=3/2状態の混合状態が形成され、キタエフ相互作用が実行的に小さくなってしまうことが明らかになった。 β-Li2IrO3と塩化亜鉛との複分解反応によるハイパーハニカム型β-ZnIrO3についての合成にも成功したが、強い試料依存性がありスピングラス的な振る舞いをする試料およびスピン液体的な振る舞いをする試料が得られた。物性が変化する原因の究明と、純良な試料の作成のための合成法の確立が今後の課題である。 さらに、Na2IrO3を前駆体とした複分解反応による新物質の合成にも成功した。残念ながら本結果についてはまだ学会発表および論文発表を行っていないため、この場での具体的な物質名は控えさせていただくが、Mott絶縁体の領域を超えるような電気伝導性およびパウリ常磁性的な磁化率が観測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画どおりに新物質CdIrO3の合成に成功し、物性を明らかにし、本研究に関する論文をPhysical Review Materialsに出版することができた。その意味では、研究の進展はほぼ順調であるといえる。また、当初予期していなかった新反応の発見にも成功した。 一方、β-ZnIrO3については、合成条件の違いにより、物性が変化することが分かった。これらの系に関しては、おおまかな物性は明らかにすることができたが、詳細を明らかにするためには、試料合成法の確立が急務である。
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今後の研究の推進方策 |
まず、令和元年度に得られたNa2IrO3を前駆体とした新物質の物性解明を行う。また、引き続きβ-ZnIrO3についても試料合成法の確立を目指す。さらに、以前に合成した三方晶歪がもっとも小さいMgIrO3についての圧力下磁化測定を行う予定である。 令和2年度もキタエフ磁性体候補物質の新物質探索を精力的に行う。近年の理論的研究の発展により、Ir4+などの低スピンd5電子系だけでなく、Co2+などの高スピンd7電子系やPr4+などのf1電子系でもキタエフ磁性体となることが示されているので、低温複分解反応を用いてCoやPrがハニカム格子を形成する新物質の合成を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
所属が申請時の物性研から、研究開始時に東京農工大に異動となり、当初購入予定であった試薬についてすでに現在の研究室にストックがあったため、物品費が減少された。また物性研で行う予定だった高圧合成について現所属では行うことが難しかったため、そのための物品費についても減少した。さらに、新型コロナウイルスの影響により2月および3月の出張実験および学会発表がすべてキャンセルなったため旅費についても減少した。 また、上記の原料のストックも減ってきたため、純量試料の購入に充てる。また、令和元年度の研究において、現在研究室が保有している試料合成用の炉の数が足りなくなることがしばしば見られたので、実験の効率化を図るために焼成炉を複数購入する予定であり物品費を多めに充てる。さらに、京都大学において比熱測定実験およびNMR測定実験などを複数計画しているため、旅費を当初よりも多く計上する。
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