研究課題/領域番号 |
19K14647
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
上田 健太郎 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (40835336)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 金属絶縁体転移 / 磁性 / 磁気輸送現象 / トポロジカル電子状態 |
研究実績の概要 |
本研究では、巨大なスピン軌道相互作用を有する強相関電子系酸化物に着目し、磁性と結合した新奇トポロジカル電子相の開拓とその物性機能の解明を目的としている。この目的のため、トポロジカル電子状態の発現可能性を指摘されているパイロクロア型イリジウム酸化物を中心に系統的な物質開拓を行ってきた。 まず、フッ化カリウムを用いたフラックス法を用いて、高品質なPr2Ir2O7単結晶を合成した。50 mKの極低温下で電荷輸送特性の磁場依存性を測定したところ、局在スピンの多様な磁気構造相転移に伴って、輸送特性が劇的に変化する様子を観測した。これは、各々の磁気対称性を反映したトポロジカル電子状態の出現を示唆している。今後、理論計算と比較することで、輸送現象の解明や物理パラメータの定量的な議論を行なっていく予定である。 より電子相関の強い系Gd2Ir2O7において、高圧合成法を用いることにより、系統的なフィリング制御を行うことに成功した。反強磁性絶縁体から常磁性金属への相転移、さらに何桁にもわたる巨大な抵抗率の減少を観測した。さらに、量子臨界点近傍において、符号反転を伴う特徴的なホール効果を観測した。これは、Gdの巨大な局在モーメントによるIrスピンとの相互作用により、電子バンドの縮退が解け、新奇なトポロジカル電子状態が現れたことに起因すると考えている。理論では、トポロジカルチャージが2のワイル点が現れる可能性があるとの指摘があり、今後、光学測定などで明らかにしたいと考えている。 総じて、高品質な試料を合成することに成功し、従来よりも広範囲な物理パラメータを制御することを可能にした。これにより、新しい磁気・電子状態を開拓することに成功した。今後は、光学測定などのより多角的な測定を用いて現象を明らかにしていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
まず、試料合成が順調にできていることが挙げられる。目的物質は、イリジウム酸化物の揮発性により組成ずれが容易に生じてしまうため、系統的な調査が困難である。しかし、フラックス法における厳密な温度調整や、機密性の高い高圧合成法を用いることで、この問題を最小限に抑え、信用に足る結果を得ることができた。
さらに、接触抵抗などを出来る限り抑えた厳密な輸送測定により、これまで見落とされていた重要な実験結果を得ることができた。
総じて、明確な研究方針のもと、創意工夫を凝らした実験手法により、当初の研究計画以上に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
Pr2Ir2O7単結晶のプロジェクトについては、今回得られた輸送特性と理論計算の比較を行い、温度・磁場・圧力のパラメータ内でどのような磁気・電子相が発現しているかを具体的に議論していく予定である。
Gd2Ir2O7多結晶のフィリング制御モット転移のプロジェクトについては、量子臨界点近傍でより細かくパラメータをふることにより、どのように応答が変化していくかを詳細に調べる予定である。さらに、熱電・光学測定を行うことにより、電子状態に関する知見を得ることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験の進捗状況により、比較的高額な物品を購入する必要が出てきたため、来年度に予算を回した。
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