本研究課題では、4d・5d電子系酸化物を対象に、電子相関と相対論的スピン軌道相互作用の競合による新奇トポロジカル物性の創出や、金属絶縁体転移などの劇的な相転移現象の開拓を行なってきた。この目的のため、パイロクロア型イリジウム酸化物・ルテニウム酸化物に着目して研究を行った。 (i)イリジウム酸化物におけるフィリング制御と磁場誘起トポロジカル電子相転移 パイロクロア型酸化物においては、希土類磁気モーメントと遍歴電子との磁気的結合が強く、外場で希土類の磁性を制御することによって電気伝導性が変化することが知られている。近年、等方的なゼーマン場によって新しいトポロジカル電子状態が生じることが理論的に提唱された。そこで、等方的なガドリウムスピンを有する化合物に着目し研究を行った。その結果、化学置換によって電子占有率を変化させると、絶縁体から金属へ相転移することを発見した。さらに、相転移近傍において、ホール角が1.5%と既存の強磁性酸化物と比較して最も大きい値を示すことがわかった。この巨大な磁気応答は、電子バンドのトポロジーを反映していると考えられる。 (ii)ルテニウム酸化物におけるフィリング制御型金属絶縁体転移と量子輸送現象 パイロクロア型ルテニウム酸化物のAサイトには、三価の希土類イオンと二価のイオンが入る。前者は反強磁性絶縁体であり、後者はスピングラス的な金属である。これは、ルテニウムサイトの電子数によって劇的に物性が変化することを暗示しているが、合成が困難なため調べられていなかった。そこで、高圧合成法を用いることによって系統的に組成を変化させ、物性を輸送測定や光学測定を用いることで多角的に調べた。その結果、中間相で強磁性金属が現れることを見出し、その起源について、フント結合が重要な役割を果たしている可能性を理論計算とあわせて議論した。
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