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2019 年度 実施状況報告書

60テスラパルス強磁場中のNMR緩和率測定系による磁場誘起相の実験的検証

研究課題

研究課題/領域番号 19K14648
研究機関東京大学

研究代表者

松井 一樹  東京大学, 物性研究所, 特任研究員 (20826226)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2021-03-31
キーワード核磁気共鳴 / NMR / 緩和率測定 / パルス強磁場
研究実績の概要

本研究は,測定系の開発と物性測定への応用の2つのステップで構成される.まず測定装置系の開発としてパルス強磁場下での精密な核磁気共鳴(NMR)スペクトル測定および縦緩和率(NMR-T1)測定を実現する.パルス磁場は強い磁場を発生できる一方で,磁場が大きく時間変化する.特に緩和率測定は磁場の時間変化に大きく影響を受けるため,これまでパルス磁場中での測定報告はなかった.本研究では,内部に追加で設置する小型のマグネットによる磁場の高速PID制御技術を用いることで,NMRスペクトル測定およびNMR-T1測定に耐える時間安定性を持つ磁場発生を行い,またパルス磁場下での測定に最適化したNMR測定系を構築する.次に,NMR-T1測定をこれまで不可能であった強磁場域(~60テスラ)において行うことで,強磁場で誘起される強磁場量子相の詳細なスピンおよび電子状態を明らかにする.
2019年度において,以下の成果が得られた.(1)PID制御により一定の磁場勾配を持つパルス磁場を発生させ,磁場掃引スペクトル測定を実現した.(2)PID制御により平坦化したパルス磁場を発生させ,測定周波数を変化させることにより周波数掃引スペクトル測定を実現した.(3)20テスラ程度の低磁場において,NMR-T1測定を実際に試験した.
(1),(2)についてはスペクトル測定手法に関する成果であるが,NMR-T1測定において測定対象とする信号を決定するためには正確なスペクトル測定が必要となるため重要である.また,(3)は,NMR-T1が既知の試料についての低磁場での試験的な測定であり,低磁場において5ミリ秒程度までのNMR-T1測定が実現した.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

2019年度は測定系の開発を中心におこなった.NMR-T1測定の実現に向けた装置開発と並行して,NMR-T1測定の対象とする信号を決めるために必要となる精密なスペクトル測定のために必要な装置開発を行った.
(1)PID制御により一定の磁場勾配を持つパルス磁場(スロープトップトップパルス磁場)を発生させ,磁場掃引スペクトル測定を実現した.これにより,一度の測定で0.1テスラ程度の幅で磁場を変化をさせ,磁場掃引スペクトルを得ることができる.内部磁場が大きく幅の広いスペクトルの短時間での測定を可能となった.(2)PID制御により平坦化したパルス磁場(フラットトップパルス磁場)を発生させ,測定周波数を変化させることにより周波数掃引スペクトル測定を実現した.これにより,磁場を固定して幅の広いスペクトルを測定することが可能となった.特に,磁場変化によって相をまたぐ恐れのあるような磁場領域において効果的な測定となる.(3)20テスラ程度の低磁場において,NMR-T1測定を実際に行った.
(1),(2)についてはスペクトル測定手法に関する成果であるが,NMR-T1測定において測定対象とする信号を決定するためには正確なスペクトル測定が必要となるため重要である.また,(3)は,NMR-T1が既知の試料についての低磁場での試験的な測定であり,低磁場において5ミリ秒程度までのNMR-T1測定が実現した.

今後の研究の推進方策

2019年度は測定系の開発を中心におこない,NMR-T1測定の実現に向けた装置開発と並行して,NMR-T1測定の対象とする信号を決めるために必要となる精密なスペクトル測定のための装置開発を行った.スペクトル測定のために磁場制御方法の改善を行ったが,いまだ不十分である.スペクトル測定,NMR-T1測定ともに,磁場の安定性は極めて重要な要素である.2020年度おけるパルス磁場の改善計画としては,内部で磁場の制御を行うマグネット(ミニコイル)の設計の見直しと,制御方法の改善を計画している.前者については,ミニコイルの空間的な磁場の均一性・応答性能に影響するインダクタンスなどを考慮した設計の見直しと合わせて,磁場制御系全体の改善を行う.これにより,制御信号に対する実際の系の応答性能の改善を図る.後者の制御方法については,シンプルなPID制御だけでなく,フィードフォワード制御なども組み合わせることでさらなる制御の安定性を得る改善である.また,NMR測定系については,対応周波数を拡張するため,現在のボトムチューニング形式をとっているプローブ以外に,トップチューニング形式のプローブの作成を計画している.感度はボトムチューニングに劣るものの,調整範囲が広く,またパルス磁場中での運用において安定性が高いことを,異なる手法でパルス磁場中NMRスペクトル測定をすでに実現しているドレスデン強磁場研究所での共同研究・議論において確認したためである.

次年度使用額が生じた理由

装置開発が中心的であったため,寒剤の消費が当初の想定より少なくなった.負荷が大きく破損が多く起きることが想定されていたスイッチングモジュールについては,測定系全体の見直しにより,破損の頻度が低下していると考えられる.そのため,当初の計画より支出が少なくなった.プリアンプなどのNMR測定関連機器については,本格的な物性測定を並行して行うことを見込んでの購入計画であったが,初年度の開発の段階ではそれほど重要でないことから,次年度の購入と計画を変更した.また,旅費については2020年初頭の新型コロナウイルスの流行による移動の自粛要請から,打ち合わせや参加予定であった物理学会の中止などによって当初計画より少ない使用額となった.
次年度においては,開発だけでなく本格的な物性測定へと移行していくことから,主に寒剤による支出が増える.寒剤の価格の上昇により,計画当初の見積もりより支出が多くなることが見込まれるため,初年度からの繰り越し分を充てる計画である.

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2019 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 学会発表 (2件)

  • [国際共同研究] ドレスデン HZDR 強磁場施設(ドイツ)

    • 国名
      ドイツ
    • 外国機関名
      ドレスデン HZDR 強磁場施設
  • [学会発表] パルス強磁場中NMR測定のための装置開発III2019

    • 著者名/発表者名
      松井一樹, 小濱芳允, 荒島洸樹, 井原慶彦
    • 学会等名
      日本物理学会2019年秋季大会(岐阜大学)
  • [学会発表] 磁化およびNMR測定によるブリージングパイロクロア強磁性体CuInCr4S8の強磁場磁気相探索2019

    • 著者名/発表者名
      厳正輝, 松井一樹, 岡本佳比古, 森政貴, 竹中康司, 井原慶彦, 小濱芳允
    • 学会等名
      日本物理学会2019年秋季大会(岐阜大学)

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公開日: 2021-01-27  

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