| 研究課題/領域番号 |
19K14649
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| 研究機関 | 東京大学 |
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研究代表者 |
石塚 大晃 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (00786014)
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| 研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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| キーワード | スピン流 / 非線形光学効果 / シフト流 / スピントロニクス / 量子磁性体 / トポロジカル絶縁体 / 軌道自由度 |
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| 研究実績の概要 |
本年度は研究課題の中核を成す光による非線形スピン流の生成可能性を，非線形応答理論を用いて調べた．そして，本課題が対象とする以下の３つケース全てで非線形スピン流が生成できることを確認した．
まず，１次元スピン鎖におけるスピノン励起を用いた非線形スピン流の計算公式を導出した．さらに，１次元スピン鎖のVBS状態におけるスピン流の非線形伝導度を計算した．そして，縦偏光を用いてスピン流の生成が可能であることを示した．縦偏光は角運動量を持たない為，光から物質への角運動量転写が無くても，スピン流を生成できることを意味する．さらに準粒子の寿命と応答強度の関係を解析し，非線形スピン流が準粒子寿命に依存しないことを確認した．その為，非線形スピン流が熱揺らぎで減衰しにくい．また，フェリ磁性体における光スピン流の計算を行った．フェリ磁性体は，ゼロ点振動によるマグノンが絶対零度で存在する．この磁気揺らぎを用いて光スピン流を作れることを確認した．一方，強磁性体ではスピン流が生じないことが解った．以上の結果はシフト・スピン流の生成には量子揺らぎが必要なことを示唆する．
次に，強磁性体においてマグノン数を保存しない励起過程を用いた共鳴機構による光誘起スピン流の発生を確認した．この機構はマグノンを励起する機構である．しかし，波数0のマグノン励起（群速度ゼロ）から光誘起スピン流が生成される点で従来の機構と大きく異なる．実際に，非線形スピン流の強度が準粒子寿命に依存しない等，従来の光誘起スピン流と異なる性質を持つことを確認した．
最後に，計画外の成果として，トポロジカル絶縁体における，光による誘電分極の生成が出来ることを見出した．本結果は反転対称性のある物質でも非自明な光誘起現象が観られることを示した．
これらの結果により，光によるスピンや軌道自由度の流束制御が可能であることが理論的に確認できた．
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| 現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は，本研究計画の中核をなす光誘起スピン流の生成可能性を理論的に示すことが出来た．特に，１）光誘起スピン流が特別なセットアップによらず一般的に見られる現象であること，２）現在の技術で観測可能な強度のスピン流が生じること，３）光誘起のスピン流が準粒子の緩和に対して頑健であることなど，今後の実験的研究に向けて予想以上に肯定的な結果が得られた．また，シフト電流型の光誘起流束が光励起で一般的に見られる現象であることを明らかにした．これらの結果は，新規な光応答の観点から興味深い他，スピントロニクスなどへ今後の展開が期待できる．
さらに，より発展的な課題として，反転対称性のある系における光応答の研究課題に着手することが出来た．そして，軌道自由度に対応する流束が光によって生成できることを示した．この結果は，反転対称性のある系でも非自明な非線形応答がみられることを示した成果である．この現象や関連現象の一般的性質および多様性は興味深い課題になると考えている．
以上の様に，進捗速度，得られた学術的成果の両面で，本年度は当初計画を上回る進展を得られた．また，来年度以降の理論研究および，関連分野における実験研究につながる発展性のある成果を得たと考えている．
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| 今後の研究の推進方策 |
来年度は強磁性体のスピン流生成について引き続き解析を行う．この機構は，昨年度研究したスピノン系およびフェリ磁性体のスピン流とは異なる機構であり，今後のより詳細な解析を通じて理解を深める必要がある．また，光誘起スピン流を実験的に研究する為の候補物質の探索を進める．いくつか候補となる物質は，本年度出版した論文中でも挙げている．しかし，各物質で期待されるスピン流の大きさや，スピン流を見るのに適したセットアップなどの詳細はこれまでの研究からは解らない．そこで，有力候補物質の探索と各物質におけるスピン流の解析を行う．
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| 次年度使用額が生じた理由 |
JuliaやMathematicaを用いた計算の為の小型ワークステーションを購入する予定で物品費を計上した．しかし，予定していた計算は所属研究室所有のＰＣクラスタの一部に必要なソフトウェアをインストールしたり，クラウドサービスを活用することで対応できた．その為，翌年度に繰り越しが生じた．繰り越した物品費はクラウド計算機の使用料として来年度活用する．
共同研究者との打ち合わせの為，海外出張の為の経費として旅費を計上した．出張は実行したが，先方より滞在経費を出していただくことが出来た．その為，海外出張の為に申請した旅費分の繰越が生じた．来年度は，今年得られた成果を元にした共同研究を予定している．繰り越した旅費は，これら共同研究者との打ち合わせなどに用いる．
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