本研究課題を通して、反転対称性の破れた磁性体におけるスピン流の整流効果について研究し、2スピノン過程や2マグノン過程による非線形スピン流の整流が可能であることを明らかにした。さらに、1マグノン過程を用いた非線形応答理論の一般公式の導出と、この機構によって大きな光誘起スピン流をCrハライド系物質の2層系を用いて生成できる可能性を明らかにすることができた。 本年度は、本研究を通して得られた成果の発信と、実験研究へとつなげることを目的として、国際会議等での発表と議論を中心に行った。本研究課題は2022年度までの完了を予定しており、実際に2022年度末までに当初予定していた以上の研究成果を得ることができた。一方で、研究の開始後に新型コロナウイルスの流行により、当初予定していた研究成果等の発信が行えない状態となった。そのため2023年度まで研究計画を延長し、2022年度までに行うことができなかった研究成果の発信を行った。 さらに、これまでの研究で得られた光誘起スピン流の知見を応用して、フォノンによる熱流の整流効果の研究を行った。まず、光によるフォノンの整流効果の一般公式を非線形応答理論を用いて定式化した。そして、この公式を元にして、(1)フォノンの整流効果がシフト・ベクトルに比例し、シフト電流と同様の性質をもつこと、(2)現在利用可能な強度の光源でも、通常の熱流測定と同程度の熱流を生じさせることができること、(3) シフト電流と異なり、3つ以上のフォノン・バンドが必要なことなど、フォノンの熱流の基本的性質を明らかにした。この研究によって、光によるフォノンの整流効果が存在すること、整流されたフォノンによって生じる熱流が実験的に測定可能な強度に達することを確認できた。 さらに、これらの成果をまとめ、論文を投稿した。原稿は、プレプリント・サーバーにて既に公開されている。
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