研究課題
本研究では、スキルミオンにおける輸送現象について光学測定という新しい切り口から、ベリー位相効果によって引き起こされる新奇な伝導電子ダイナミクスの解明・開拓を目指している。今年度は、初年度に構築した広帯域赤外磁気分光測定系を用いることによって、トポロジカルホール効果が顕著に大きいGd3PdSi2に着目した測定を行った。この物質では、(光学測定としては)強磁場下(~3 T)かつ低温(10 K以下)という厳しい状況で測定しなければならないため、まずはこの測定環境の整備を行った。特に、クライオスタットの最適化をすることで7 Kまでの冷却が可能になった。また測定精度についても数十マイクロラジアン程度の世界的にも高精度にまで仕上げることに成功した。実際の測定においては、スキルミオン相を横切るよう温度を固定し、磁場依存性を丹念に測定した結果、エネルギー領域によってカー回転の磁場依存性が異なっているという、これまでに観測されたことのない振る舞いを見出した。低エネルギー領域においてはトポロジカルホール効果と同様の磁場依存性を示す一方、高エネルギー領域では磁化や異常ホール効果と同じ磁場依存性になっており、スキルミオン形成がフェルミ準位近傍の電子構造に強く影響することがわかった。この結果は、初年度にMnGeにおいてスキルミオン形成に由来した巨大磁気光学効果をテラヘルツ領域において観測した研究とも整合している(ちなみに、この研究は論文投稿中である)。また、この測定系を用いることで、他にもいくつか大きな異常ホール効果を示す物質においても研究を開始している(昨年度行っていたCo3Sn2S2の研究については論文にまとめ、すでにNature Communications誌に出版された)。
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Nature Communications
巻: 11 ページ: 4619
10.1038/s41467-020-18470-0
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/foe/press/setnws_202009160956044725043931.html