研究課題/領域番号 |
19K14660
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
秋葉 和人 岡山大学, 自然科学研究科, 助教 (60824026)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 鉛テルル / 量子振動 / ディラックネス / 高圧力 |
研究実績の概要 |
本年度の研究計画は、圧力下におけるPbTeの電気抵抗およびHall抵抗を測定し、量子振動からZeemanサイクロトロン比(ZC比)の圧力依存性を明らかにすることであった。これに対して、本年度に得られた研究成果を示す。 まず対向アンビル型圧力セルによる磁気輸送特性の測定を行った。その結果、加圧に従って量子振動が変化し、2 GPa付近で位相反転が見られた。これはZC比が1となる際に予想される振る舞いであり、2 GPa付近でバンドギャップが零となっていることを示唆している。その後、より細かく圧力を制御してZC比の圧力依存性を明らかにするために、インデンター型圧力セルによる同様の実験を行った。しかしその際、量子振動が常圧から4 GPa付近まで変化せず、ZC比が変化しない場合があることが確認された。これらの実験では圧力セルが異なるものの共通の圧力媒体を用いており、Hall抵抗から求められたキャリア数にもほとんど違いがないことが分かっている。現在、この違いを生じる原因の特定を進めている。また本研究で用いているZC比による電子構造の評価は、他の物質でも有効であると考えられる。これを明らかにするために、単元素Teや、電荷密度波物質LaAgSb2における磁気輸送特性の測定も行い、どちらの物質においても明瞭なShubnikov-de Haas振動を観測した。Teに関しては、その量子振動の起源が表面の電荷蓄積層であることを明らかにした。今後の解析によってこれらの物質でもZC比によるディラックネスの評価が有効であるかどうかを明らかにする予定である。 本年度の間に、PbTeにおける「ディラックネス」の決定を解説した日本語記事、およびPbTeの量子振動測定の結果を含む書籍が出版された。またTeとLaAgSb2に関して得られた成果を国内学会および国際学会において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画していた圧力下におけるPbTeの磁気輸送特性は順調に遂行できたものと考える。ただし得られた結果の中にはバンドギャップが零になっていることを示すデータがある一方で、バンドギャップが変化していないことを示すデータも含まれることが判明している。今後この違いを生じる原因を究明することが必要であると考えられる。また当初の計画には含まれていなかったが、ZC比による電子状態評価をPbTe以外の物質に拡張するための実験も進んでおり、全体を総合しておおむね順調に進展しているものと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
量子振動の本質的な振る舞いを明らかにするために、今後他の物理量(磁化や比熱などの熱力学量)の量子振動の測定を行い磁気輸送特性と比較することを計画している。またPbTeと同じナローギャップ半導体のTeにおいては、特別な処理を施していない表面でも電荷蓄積層が生成し、低温・強磁場下では磁気輸送特性に影響を及ぼすことが分かってきた。そのためPbTeにおいても類似の影響がないか評価することも検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、多チャンネル電気抵抗測定を数値的ロックイン法で行うためのデジタルオシロスコープを導入する予定であったが、現状において研究室に既存のACレジスタンスブリッジなどで十分な測定精度が得られているため導入を見送った。また本年度末に予定していた学会発表が中止となった影響で、旅費として想定していた経費が不要となった。以上の予算を次年度における圧力セルの消耗部品の購入に充てる予定である。
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