研究課題
令和3年度は,鉄系超伝導体BaFe2As2を対象にJ-PARCのパルス中性子分光装置を用いた非弾性中性子散乱実験を行った.過去に同物質に対して行った実験では,超伝導状態における動的スピン感受率に複数のピーク構造を見出したが、統計精度の問題で詳細なスペクトル解析が困難であり,結論を先送りにしていた.そこで,過去の実験の問題点を洗い出し測定条件等を最適化することで,超伝導状態における動的スピン感受率の再検証に取り組んだ.特に,BaFe2As2の3次元性が想定よりも遥かに顕著であったため,2次元性を仮定して行った過去の計測手法では不十分であることが判明した.そこで,複数の結晶配置での測定を行い,4次元空間上 (運動量3方向+エネルギー方向) における散乱強度のデータを取得することで,「完全」な動的スピン感受率を再構成した.その結果,BaFe2As2の超伝導状態の動的スピン感受率には少なくとも2つのピーク構造が現れることを高い統計精度で観測した.理論研究グループとの共同研究を通して,観測された複雑なピーク構造は鉄系超伝導体のマルチギャップ構造を反映したものであることが明らかになった.本研究により、中性子散乱実験を用いて超伝導ギャップ等の電子構造の抽出が可能である事が示された。
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Science Bulletin
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