研究課題/領域番号 |
19K14669
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
松浦 慧介 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (50824017)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 急冷実験 / 磁化制御 / 強相関電子系 / マンガン酸化物 |
研究実績の概要 |
強相関電子材料では、固体中における電子間相互作用が相の発現に本質的である。特に、強相関電子材料の一つであるペロブスカイト型マンガン酸化物では、様々な電子秩序相が発現する。電荷・スピン・軌道・格子といった固体内自由度が相互に結合しているため、電場、磁場、圧力など固体の環境変数を制御することで、電子相間の相転移現象が精力的に調べられてきた。近年は、光やX線を用いた非平衡状態の研究の舞台としても注目されてきている。本研究では、非平衡状態を探る別のアプローチとして、温度掃引速度(特に冷却速度)の観点から調べた。まず、電気抵抗と磁化を同時に測定可能な測定系を構築した。これは、ミクロな状態変化(電気抵抗)だけでなく、結晶全体にわたるマクロな状態変化(磁化)も調べるためである。この測定系により、電気パルスを用いた急冷後の磁化測定が可能となり、電気パルスを用いた急冷による強磁性金属状態の生成に成功した。磁気力顕微鏡を用いて、磁化分布の実空間観測を行うことで、急冷状態の可視化も行った。また、磁化の冷却速度依存性をはじめて明らかにした。その結果、反強磁性絶縁体相(電荷軌道秩序相)と強磁性金属相の相境界近傍において、臨界冷却速度が4桁近く減少することを示した。つまり、相境界近傍では冷却速度の効果が顕著に物性応答に現れることを意味している。以上の結果は、これまで自由エネルギーの大小関係を示すと考えられてきた相図(状態図)は、冷却速度とも密接に関係していることを意味している。これらの結果を応用することで、磁化の不揮発制御を実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通り、電気抵抗と磁化を同時測定系の構築および磁気力顕微鏡を用いた実空間観測の成功など、期待した実験結果が得られているため。
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今後の研究の推進方策 |
現時点では軌道状態に関する知見は得られておらず、急冷下における軌道状態を明らかにしていきたいと考えている。具体的には、超音波測定と急冷実験を組み合わせることができないか検討している。また、現時点で得られた知見を活かして、本研究で構築した電気抵抗と磁化の同時測定系を他の強相関電子物質に適用することを検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスに関連して、製品の納品が間に合わず、次年度に繰り越すことで改めて購入費用に充てる方が望ましいと考えたため。
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