研究課題/領域番号 |
19K14673
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
多羅間 充輔 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (90756834)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 細胞運動 / アクティブマター / メカノセンシング / 自己組織化 / 協同現象 |
研究実績の概要 |
生き物の最小単位である細胞は孤立した状態で様々な運動性を持ち、また多数の細胞が集まるとさらに複雑な集団ダイナミクスを示す。しかし、そのメカニズムは細胞そのものの複雑さゆえに未解明な点が多い。そのような単一の細胞の自律運動や、多数の細胞が自己組織化する細胞集団・生体組織のダイナミクスを物理学の視点から理解することを目指し、細胞を自発的に運動するアクティブマターとして捉えた研究を行っている。その実現のため、メソスケールの細胞を中心として、ミクロ~メソ~マクロスケールという異なる階層を繋ぐ、細胞・細胞集団のマルチスケールモデルの開発に取り組んでいる。申請段階で計画していた研究項目について、令和1年度は以下のような成果を得た。 研究項目1. 細胞のメカノセンシング:基板の硬さに応じて内部状態を制御することで、運動性を変化・適応させる細胞のダイナミクスを再現するメカノケミカルモデルの開発に向けて、基本となる細胞の力学モデルを発展させて、細胞が接着する基板の状態を感知して内部状態を変化させるモデルの構築を行った。 研究項目2. 細胞集団の協同運動:細胞がどのように周囲の細胞の存在を認識するかについては、いくつかのプロセスが知られている。その一つである接触阻害では、細胞同士が接触することで内部の極性を変化させることで運動方向を変化させる。このようなプロセスを再現するために、これまで構築してきたメカノケミカルモデルに細胞の極性を導入して、接触による内部極性の変化を組み込んだ。具体例として、細胞の運動持続性の実験結果の再現に成功した。また、簡単な例として、細胞が物理的な障壁に衝突したときの運動方向の変化過程の数値シミュレーションを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、令和1年度には研究項目1に注力し、令和2年度後以降に研究項目2を集中的に発展させることを予定していた。しかし、研究項目2のモデルの基礎部分の構築がスムーズに進んだため、令和1年度はこれらを同時並行で進めた。その結果、研究項目1では、単純化した力学モデルをもとに細胞が基板の固さを認知する過程への発展を行った。また、研究項目2では、細胞同士の接触により、細胞が内部状態を変化させて運動を適応させるモデルの構築を行い、簡単な具体例として物理障壁への衝突への適用をすることができた。これらはいずれも、今後の細胞運動のメカノケミカルモデルの構築・発展に向けた基礎となることから、本研究は順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進の方策としてそれぞれ以下を想定している。 研究項目1:メカノケミカルモデルへの発展を目指し、単純化した力学モデルの知見を発展させて、細胞が接着する基板の力学的な状態認識を細胞内部の化学反応に結合する。 研究項目2. 細胞集団の協同運動:構築したモデルを2つの細胞同士の接触阻害へ適応する。その後、さらに細胞数を増やし、細胞集団などの混雑した状況でのシミュレーションに発展させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の助成金は大方当初の計画通りに使用したものの、時々刻々と変化する物品の販売金額や航空運賃、宿泊費の結果、端数として、請求額と支出額との間に差額が生じた。しかし、その差額は100円以下であり、次年度分として請求した助成金と合わせて使用することで、上述の理由から計画通りに予算執行を行ったとしてもほぼ不可避に発生する所要額と実際の支出との差額分として充てる。
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