本研究では、マイクロ流体デバイスを用いた実験的手法により、界面活性剤により界面が安定化された油中水滴系のダイナミクスと流動の時空間構造を理解することを目指している。最終年度となる本年度は、前年度に立ち上げたマイクロ流体実験系を用いて、特に液滴密度に応じて現れる流れの時空間構造の解析を行った。平均自乗変位を解析し、時間に対するベキ指数を得ることで、密度の増加にしたがってsuper diffusiveな運動からdiffusiveな運動へ遷移する異常拡散が確認された。また、このマイクロ流体デバイスによる液滴形成機構を用いて、ゲル化をともなう液滴の異方形状の制御も試みた。液滴周辺に生じる流れ場の構造を活用し、マイクロ流路内でゲル化の開始位置を制御した実験結果について、学会発表1件を行った。これらは、自然界や産業界の様々な局面で現れる混相流の特異なふるまいの理解や制御を行う指針となる成果として今後の発展が期待される。 本研究課題に関連して、液滴のアクティブな運動に関するレビュー論文1報、赤血球細胞の集団流れに関する和文解説1報、マイクロ流体デバイス内の粒子を捕捉・姿勢(方向)制御する論文1報を発表した。また、水相と油相にそれぞれ溶けた界面活性剤が油水界面で会合し界面不安定性を引き起こす実験系について、その界面ダイナミクスと液滴の分裂について解析と考察を行った結果について、論文1報を発表した。その他、荷電脂質を含む多成分脂質膜上での相分離ドメインの泳動に関する論文1報、密度の異なる流体が振動的に細孔を通過する非線形現象について既報の実験結果に対応する数値シミュレーションを行った結果に関する論文1報、粉体系に現れる分岐構造に関する論文1報を発表した。
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