研究課題/領域番号 |
19K14678
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
高山 裕貴 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 助教 (40710132)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | コヒーレント回折イメージング / 放射線損傷 / 圧縮センシング / トモグラフィー / 位相回復 |
研究実績の概要 |
本研究では、超分子複合体レベルでの細胞構造解析の実現を目指し、少ないX線照射線量での低温コヒーレントX線回折トモグラフィー(CXDT)技術の開発を進めている。今年度は、(1) コヒーレントX線の干渉効果を活用した回折シグナルの増強技術として、FIB加工により、散乱断面積の大きい金属のマイクロピラーアレイを構築した試料基板の開発を行った。本基板を用いて細胞の凍結水和試料を作製し、着想通り微小液滴中に細胞を保持できることを確認した。大型放射光施設SPring-8 BL29XULでの低温CXDT実験により、露光時間150秒で25 nmを超える空間分解能まで回折シグナルを観測することができた。現在、高空間分解能での位相回復計算を進めている。また、(2)情報科学を活用した低照射線量トモグラフィー技術として、圧縮センシングを組み込んだCT再構成アルゴリズムの検証を行い、高度化に着手した。低温CXDTでは装置の制約から投影角度範囲が制限され、X線照射線量の制限から投影像枚数も制限される。計算機シミュレーションやSPring-8 BL24XUで取得した金属微粒子のCXDTデータでの検討から、L1正則化や全変動正則化を組み込んだ圧縮センシングCT再構成により、130度程度までの投影角度範囲制限下やCrowther基準の1/5程度の投影枚数であってもアーティファクトが少ない自然なCT再構成像が得られることを確認できた。例えば、投影角度範囲が制限された金属微粒子のデータでは、標準的に用いられているフィルター補正逆投影法では粒子表面が削れて内部の空隙が露出したのに対し、圧縮センシングCT再構成法を適用することでこれを抑制し、SEM像と良く対応する表面形状のCT像を再構成することができた。現在、前記シグナル増強CXDTデータへ本技術を適用しながら高度化を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
早期に回折シグナル増強用試料基板の試作が完了し、課題の整理や位相回復/CT再構成アルゴリズム改良のための実験データを取得することができたため、初年度の計画を遂行することができた。加えて、次年度の方針も十分に立てることができている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、(1)回折シグナル増強技術と(2)低照射線量トモグラフィー技術の高度化を進めながら真核細胞のCXDT研究を進める。回折シグナル増強用試料基板はFIB加工では加工時間の制約から大量生産が難しい。リソグラフィー技術を用いた製作法を検討する。また、X線光学系の安定化に伴い入射X線強度が高くなり、回折シグナルの特に強い極小回折角付近で検出器の飽和が見られた。金属マイクロピラーのサイズや配置の最適化を行うと共に、極小回折角のデータ損失にロバストな位相回復アルゴリズムの改良も検討する。CT再構成アルゴリズムは、通常は投影像についての目的関数を最小化する。しかし、CXDTでの観測量は構造振幅であり、投影像を再生して従来のCT再構成アルゴリズムを適用する現在のスキームでは、位相回復計算の誤差による分解能の低下が生じていると予想される。高精度・高空間分解能CT再構成に向けて、構造振幅についての目的関数に基づくCT再構成アルゴリズムの構築を進める。
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