本研究では、超分子複合体レベルでの細胞構造解析の実現を目指し、少ないX線照射線量での低温コヒーレントX線回折トモグラフィー(CXDT)技術の開発を進めた。今年度は、以下の2課題を進めた。(1) マイクロピラーアレイを用いた回折シグナル増強技術の確立に向けて、SPring-8 BL29XULでのクライオCXDT実験を実施した。前年度までに改良したマイクロピラーアレイを用い、間期の原始紅藻や酵母と同程度の大きさで、細胞に比べて硬く試料作製時の変形が生じ難い樹脂材料粒子をモデル試料とした。X線光学系の配置を再検討したことで中回折角から高回折角のバックグラウンド散乱を低減し、高空間分解能データのスペックルの鮮明度を向上することができた。(2)現在採用している平面波照明型のCXDTでは計測原理的に回折データに欠損が生じるため位相回復誤差が生じ易く、その傾向は分裂期細胞のようにより大きな細胞で顕著であった。この課題を解決するために、走査型CXDTであるタイコグラフィCTの導入に向けた技術検討を進めた。タイコグラフィCTでは、(a)走査型測定により大きな試料の測定が可能であり、(b)多重測定データを用いた高精度な位相回復や(c)拡がったダイレクトビームとの干渉効果によるシグナル増強が期待できる。クライオ環境での試料ドリフトによる像質の劣化が懸念されたため、SPring-8 BL24XUにて照射位置精度の悪い計測データを生成し、位置補正アルゴリズムを組み込んだ位相回復法でも空間分解能10 nmを達成し得ることを実験的に確認した。また、全変動正則化とポアソンノイズモデルを組み込んだ新しいタイコグラフィ位相回復アルゴリズムを共同研究により開発し、従来アルゴリズムより1/10程度少ない照射線量のデータから試料像を再生することに成功した。
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