研究課題
本研究は白色矮星や中性子星といった強磁場天体表層(B = 10-100 kT)で起こるとされる強磁場環境特有の物理現象(相対論的磁気リコネクション等)を実験的に解明することを目的とし,レーザー‐プラズマ相互作用を利用して上記に匹敵する強磁場を実験室で生成する手法の確立を目指す.申請者らの先行研究によると,レーザーを用いて直径100μm以下の極小コイルにメガアンペアもの電流を流すことで,極所的に10 kTを超える磁場を生成可能であることが予測されている.そこで,2019年度は高精度な極小コイルの製作方法の検討・試作と磁場生成実験を実施した.コイルの製作においては,レーザー微細加工の技術を用いることで先行研究よりも遥かに高精度なものが作れることがわかり,試行錯誤の末,最小直径50μmの一巻きコイルが精度良く作製可能になった.本研究で使用するコイルはレーザー照射後壊れてしまうため,実験ではレーザー1発毎にコイルを交換する必要がある.従って,コイルの製作精度(個体差)が実験精度に大きく影響するため,コイルの精度向上は本研究における大きな進歩である.実験は2019年11月に独GSI重イオン研究所内の高強度レーザー施設にて行われた.申請者が製作したコイルに高強度レーザー(レーザー出力:~ 1e20 W/cm2)を照射し,プロトン偏向計測によって磁場の空間強度分布に関する有効データを取得した.実験は日仏西露の国際共同研究として行われ,現在は共同研究者らと共に粒子シミュレーション等を用いて実験データの詳細解析を行っている.また,2019年度は本研究に関する先行研究の成果と昨今の新規的な取り組みについてフィリピン物理学会の招待講演[1]を受けた.[1] 安部勇輝,フィリピン物理学会(SPP2019), 3A-04, フィリピンボホール島, 2019年6月1日
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り,一巻きコイルについて要求仕様を満たすものの製作方法を確立したほか,ソレノイド型など当初実験を検討していた各種コイルについても概ね製作の目途が立ち,製作の下準備を開始した.磁場の強度や空間分布の制御方法を確立する上でコイルのサイズや形状を自在に操れることは極めて重要であり,コイルの製作技術の蓄積を今年度進めたことで次年度以降の研究活動が円滑に進められると期待される.また,今年度行ったドイツでの実験では磁場の強度及び空間分布に関する情報を持つ有効データの取得に成功しただけでなく,海外の共同研究者らとも親睦を深めたほか,今後の研究方針等についても綿密な議論を交わすことが出来た.また,国際会議での招待講演などを通して本研究に関する昨今の成果について一定の認知度を得たことで,大阪大学レーザー科学研究所の高強度レーザー施設における2020年度の実験が採択された.これにより,次年度はコイルのサイズや形状をパラメータとして振り,キロテスラを超える強磁場の制御方法についてより踏み込んだ実験ができると期待される.
2020年度は大阪大学レーザー科学研究所の大型レーザー装置を使った実験が採択されているため(年度末頃の実施を予定),これに向けた準備を進める.2019年度取得した一巻きコイルに関する実験結果を踏まえて10 kTを超える磁場強度の達成に向けた検討をさらに進めるとともに,磁場の強度分布や持続時間についても一定の多様性と制御性をもたせるための技術の蓄積を目指す.これに関しては,実験でコイルのサイズや形状をパラメータとして振り,磁場の強度,分布,持続時間との相関を調べていく.当初検討していたソレノイドコイルなどについては既にその製作方法について下準備を進めており,2020年度の実験に間に合うよう製作を進める.ただし,2020年度においては新型コロナ感染症の拡大に伴い,実験スケジュールの変更(延期もしくは中止)が予想されるほか,その他の研究活動においても支障が生じると考えられる.状況に応じて随時研究計画の見直しを行うとともに,予定されていた実験が万が一実施できない場合は,粒子シミュレーションや電磁輻射流体シミュレーションを用いた理論計算を重点的に進めることで,研究を滞りなく進める.
共同研究者との打ち合わせの為の旅費に充てる予定であったが,新型コロナウイルスの感染拡大に伴う出張の自粛要請により,年度内の出張の実施が認められなかった為,次年度の自粛要請解除後に速やかに実施する予定である.
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arXiv
巻: 1908.11430v1 ページ: 1 - 6