研究課題/領域番号 |
19K14689
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研究機関 | 核融合科学研究所 |
研究代表者 |
向井 清史 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 助教 (90632266)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 非接触ダイバータ / 非接触プラズマ / ボロメータ / 輻射計測 / イメージング / 薄膜 / プラズマ計測 / 核融合 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、非接触ダイバータのエネルギーバランスの解明に必要な輻射2次元分布計測器である、赤外イメージングボロメータ(IRVB)の高感度化である。IRVBはピンホールカメラと赤外線カメラとをつなげた構造を持つため、高感度化には両者の検討が必要となる。令和2年度は、筑波大学GAMMA10/PDX装置のIRVBについて、有効画素数が最大となる赤外線カメラをプラズマ実験に適用し、ピンホールカメラの薄膜検出器に厚さ1ミクロンのチタンを用いることで、感度(NEPD)を750 microW/cm2から90 microW/cm2へと改善した。 (1)赤外線カメラについて、有効画素数(ピンホールカメラ部の薄膜検出器を見込む画素数)が最大となる機種(FLIR社製Tau2 35 mm)をプラズマ実験へ適用した。有効画素数は、従来の汎用赤外線カメラによる計測の113×88ピクセルから6.4倍の286×221ピクセルとなり、NEPDを750 microW/cm^2から280 microW/cm^2へと改善した。 (2)薄膜検出器について、昨年度、ANSYSによる伝熱計算から、従来の炭素-白金-炭素の三層構造を炭素-金-カプトンにして高感度化できる見通しを得た。しかし、炭素層の真空蒸着の際、蒸着源からの輻射の吸収による温度上昇でカプトン層が溶融した。そこで従来の構造に戻し、各種金属材料での感度を伝熱計算で評価した結果、計測対象の1 keV以下の輻射について、厚さ1ミクロンのチタンで輻射による薄膜の温度上昇が最大となることが分かった。実験的評価として、検出器の小型サンプルに真空中でHe-Neレーザーを照射し、温度上昇を赤外線カメラで計測したところ、従来の白金に比べ、チタンの検出器は2倍の温度上昇が得られた。(1), (2)によりNEPDは90 microW/cm^2へと改善でき、所期の性能を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、IRVBの高感度化について、赤外線カメラの有効画素数や薄膜検出器の材質の面から検討を行い、要求を上回る感度改善が達成できたため。 新規赤外線カメラの設置及び調整については、コロナ禍のため、研究代表者が筑波大学を訪問して行うことができなかった。しかし、共同研究者の筑波大学江角直道准教授や学生の方々のご尽力により、当初計画通りに導入することができた。 また、薄膜検出器については、昨年度検討したカプトンフィルムに金属層及び炭素層を蒸着する手法は、炭素層の真空蒸着の際にカプトン層が溶融したものの、これまでの伝熱計算や小型サンプルを用いた評価手法を活用し、新たにチタンを用いた検出器を開発することができた。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、開発した検出器をGAMMA10/PDX装置のダイバータ模擬実験へ適用し、非接触ダイバータ形成のため入射する不純物ガス種による輻射輸送の違いを調べる。 まず、令和2年度に開発したチタンを用いた薄膜検出器をプラズマ実験用の90 mm×70 mmに大型化し、熱特性分布を較正データとして取得する。具体的には、プラズマ実験で計測される温度分布からプラズマ輻射分布に変換するために必要な2次元熱拡散方程式に含まれる、輻射率、熱伝導率、温度拡散率の分布である。これらのパラメータを、検出器に真空中でHe-Neレーザーを照射し得られる温度分布とANSYSによる伝熱計算から得られる温度分布とを比較することで、10 mm四方ごとの分布を求める。 作製・較正した検出器はGAMMA10/PDXへ設置し、輻射分布計測に適用する。令和2年度に【研究実績の概要】で述べた赤外線カメラのみの改善を行った状態で、輻射の比較的大きなXeを入射した非接触プラズマを計測し明瞭な輻射分布を得ている。令和3年度は改良した薄膜検出器も適用することで輻射の弱いガス種での計測も可能となり、物理研究が進展すると期待できる。 また、令和2年度に開発した検出器は、核融合科学研究所の大型ヘリカル実験装置(LHD)や京都大学のヘリオトロンJ装置のIRVBにも適用できる可能性があるため、適用可能性を検討する。 研究発表の手法については、令和2年度までの成果をReview of Scientific Instruments誌へ投稿中であり、令和3年度の成果についても同誌への投稿やプラズマ・核融合学会年会での発表を中心に進める計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度の使用額について、コロナ禍に伴い国際・国内学会が中止・オンライン開催となったため、未使用額が生じた。令和3年度は当初の計画に加え、本研究で開発した検出器のLHDやヘリオトロンJ装置への適用可能性を検討するために使用する計画である。
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