量子多体問題の研究は,新奇な物質・デバイスを探求する物質科学から,生体物質の機構解明を目指す生命科学,そして,元素の起源に関わる天体現象を含む天体核物理学の根幹をも成す,極めて普遍的かつ重要な基礎科学的研究である.本研究課題では,時間に依存する量子多体問題,特に原子核ダイナミクスの,より現実的な記述を与える新しい理論的枠組みを構築し,最新のスーパーコンピュータを駆使した超並列計算により,原子核の励起・崩壊・反応過程における未解決問題に挑戦する.
本研究は,原子核物理学に位置付けられ,原子核―2種類のフェルミ粒子(陽子・中性子,総称して核子と呼ばれる)から成る有限量子多体系―に発現するダイナミクスの統一的な理解を与えることを目指したものである.本研究の目的は,従来の枠組みを超えた「次世代理論」を構築し,その超並列計算を実現させることにより,従来の枠組みで記述することができない稀少プロセス,多体のトンネル現象,量子揺らぎ等の記述を可能にし,内在する物理を明らかにすることである.
次世代理論では,従来の理論的枠組みの“自由度”を増やし,これまでに記述することができなかった過程の記述を実現させることを目指している.本課題の実施期間には,従来の理論的枠組みにランダムな初期揺らぎを導入する方法(確率論的平均場理論)を採用し,並列計算コードを実装・応用することで,原子核衝突の観測量のより定量的な記述を劇的に改善することに成功した.最終年度には,この枠組みを未知不安定核の生成が期待され実験も計画されている鉛原子核の衝突に応用した.また,現在の理論的枠組みでは,ランダムに生成された物理過程は独立に扱われており,それぞれの相関を考慮することによって,さらに記述を改善できると期待しており,その理論的枠組みについて定式化を進めた.
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