研究課題/領域番号 |
19K14706
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
北原 鉄平 名古屋大学, 高等研究院(素粒子), 特任助教 (40759502)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | フレーバー物理 / 標準模型を超える物理 / K中間子 / B中間子 / レプトクォーク / ミュー粒子異常磁気能率 / 超対称性模型 / ALP模型 |
研究実績の概要 |
素粒子精密測定実験は、標準模型を超える新物理を精度よく間接的に探索できる。今年度はその中でも、K中間子のニュートリノ分岐比、B中間子のタウレプトン分岐比、ミュー粒子異常磁気能率に関する研究を行った。KOTO実験は、中性K中間子のパイ中間子とニュートリノへの分岐比を探索しており、標準模型では説明のつかない事象を測定したと発表した。仮にこの事象が、パイ中間子崩壊を捕らえた適切な信号である場合、この実験により新物理の痕跡を見つけた可能性があるが、素朴にはそれはNA62実験の荷電K中間子の測定結果と矛盾していた。これらの実験における未知粒子への測定能率に関する研究を行い、有限寿命の新粒子を導入することで、これら二つの実験を同時に説明できることを明らかにした。また、B中間子のD中間子とタウレプトンへの分岐比に関する物理量が標準模型予言から3σ以上ずれていることが報告されている。この異常は、レプトクォークと呼ばれる新物理で説明できる。これに対し、Belle II実験とLHCb実験によって同崩壊の様々な偏光度を精密測定することで、代表的なレプトクォーク模型を識別できることを示した。また、ΛbがΛcとタウレプトンへ崩壊する分岐比の、新物理の詳細に依存しない普遍的な予言を明らかにした。さらに、ミュー粒子の異常磁気能率の測定結果も標準模型の予言から3σ以上ずれている。この異常から示唆される二種類の新物理:超対称性模型とAxion-like particle (ALP) 模型に対して、現在の素粒子加速器実験から与えられる制限をまとめた。超対称性模型の研究では、数多ある加速器実験の結果を包括的にまとめ、このような超対称性模型がまだ棄却されていないことを明らかにした。ALP模型の研究では、Belle II実験による将来の精密測定によって、ALP模型を観測または棄却できることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
クォークやレプトンのような素粒子精密測定は、LHC実験と同等な、またはそれを超えるような高いエネルギースケールの新物理を間接的に探索できるようなポテンシャルを持っている。今年度は、K中間子、B中間子、ミュー粒子の実験結果に基づいた新物理の研究を行うことができ、本研究課題を順調に進めることができた。特に、K中間子の新しい新物理の提案の研究は、今後の大きな発展が期待できる。一方で、長距離QED補正計算による標準模型予言の高精度化を進める研究は、予定よりも遅れている。総合的に本研究課題の進捗状況はおおむね順調といえる。
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今後の研究の推進方策 |
B中間子のタウレプトン分岐比の異常に基づいた研究を行う。この分岐比の長距離QED補正を計算する。また、この異常に基づいた有効相互作用をATLAS実験やCMS実験で探索可能かを調べる。さらに、2020年の夏に報告が予定されているFermilabによるミュー粒子異常磁気能率の新しい測定結果にも注視し研究を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していたデスクトップPCの購入を行わなかった。また新型コロナウイルス感染症の影響で、参加予定の国際会議を一部見送った。次年度への繰越分は主にデスクトップPCの購入に充てる予定である。
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