研究課題/領域番号 |
19K14707
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
多田 祐一郎 名古屋大学, 理学研究科, 学振特別研究員(PD) (90837022)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | インフレーション / ストカスティック形式 / 原始ブラックホール / 重力波 |
研究実績の概要 |
咋年度は計3本の論文を発表した。1本目では同研究室の横山助教とともに多段階インフレーションにおける原始ブラックホール(PBH)形成について議論した。これまでの観測的制限を考慮するとPBHには大きく3つの動機が考えられる。1つはLIGO/Virgoで観測された重力波の波源となる30太陽質量程度のPBH、2つ目は10^(-12)太陽質量程度の非常に軽いPBHが十分量形成され暗黒物質(DM)の役割を果たす説、そして3つ目は昨年初めに提唱された、OGLEにより観測された天の川銀河でのマイクロレンズ現象が地球質量程度のPBHによるものでないかとする説である。我々はインフレーションが多段階起きたとするとこれら3つの質量領域のPBHを同時に、簡単に実現できることを明らかにした。またこのような多段階インフレーションは後述するように弦理論の沼地予想からも支持されることを指摘した。 2本目では東北大学の高橋教授、北嶋助教とともにヒルトップインフレーションにおいて、ポテンシャルの頂点をわずかに凹ませるとインフレーション時間が巨大数的に長くなり、かつ量子ゆらぎにより凹みを抜けた後は通常のスローロールインフレーションにつながることを、ストカスティック形式を用いて定量的に示した。 3本目では同研究室博士課程1年目の小粥氏とともに、弦理論の沼地予想のもとで多段階インフレーションとスケール不変な初期ゆらぎの生成機構について研究を行った。近年様々な沼地予想が提唱されているが、これらの多くはインフレーション機構と相性が悪い。これを深刻に捉え、多段階インフレーションならば沼地予想と矛盾しないことをまず指摘した。またゆらぎを作る場が他にいるとし、カーバトン機構や変調再加熱機構によってスケール不変なゆらぎを生成できるか議論した。 以上3つの研究については国内外の研究会で広く発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では初年度は我々の開発したストカスティック-deltaN形式を数値実装し、公開コードとして発表することを目標としていた。しかしその前にフランスの共同研究者 Renaux-Petel 博士と Pinol 氏とともにストカスティック形式が理論の共変性を破ることを発見し(1806.10126)、共変なストカスティック形式の定式化について研究を行った。これにより最も一般的なストカスティック方程式の導出に成功し、これは汎用的な数値計算コードの実装に不可欠である。本研究に関しては現在論文にまとめている最中である。数値計算コードについては大枠は完成しており、上述した一般的ストカスティック方程式を組み込むだけである。以上より、本研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はまず上述した共変なストカスティック形式の定式化についての論文の完成を急ぐ。その後本定式化を数値計算コードに実装し、公開コードとして体裁を整え、論文とともに発表する。そして完成したコードを実際に具体的なインフレーション模型に適用し解析を行う。具体的には共変な定式化の効果を確かめられるような、曲がった多様体上のインフレーション模型や、ストカスティック効果が大きくなることが期待されている超スローロール模型などが挙げられる。また上述した共変な定式化は、理論として必要な条件は満たしているものの、まだ場の量子論の計算との具体的な検算は行われていない。そこでいくつかの具体例において場の量子論の計算と比較し、我々の定式化の正当性を検証する。
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