研究課題/領域番号 |
19K14708
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
北嶋 直弥 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (50737955)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 暗黒物質 / アクシオン / 中性子星 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、中性子星近傍のアクシオン暗黒物質による特異な電磁気現象を3次元格子空間における数値シミュレーションを駆使して解析し、特に中性子星の電波観測において、アクシオン暗黒物質からどのようなシグナルが予言されるかを明らかにする。最終的には質量や電磁場との結合定数などアクシオンの物理的性質が近い将来のSKAによる電波観測によってどの程度まで制限されるかを明らかにすることを目的としている。 2019年度は本研究課題を進める上で、その根幹を成す中性子星近傍におけるアクシオン電磁気学の数値シミュレーション開発を主として行った。まず、回転する中性子星周りの磁場分布を磁気双極子モデルで近似し、そこでのプラズマ密度としてGoldreich-Julianモデルを採用した単純化したセットアップの下でシミュレーションのコード開発を進めた。同時に自身のコンピュータで試験的なシミュレーションを実行し、初期の結果として、コヒーレント振動しているアクシオン暗黒物質が中性子星まわりの磁場によって電磁波に変換される現象が起こることを確認した。さらにアクシオンがマクスウェル分布に従いランダム運動している場合や中性子星の磁気双極子モーメントの向きと回転軸の向きがずれている場合に対応する、時間変化する外部磁場を考慮した場合の格子シミュレーションも同様に行い、どのようなシグナルが得られるかを計算した。2019年度の研究成果は[1]ダークマターの懇談会2019(2019年7月), [2] 4th FRIS/DIARE Joint Workshop(2019年8月), [3] 4th FRIS retreat(2019年11月), [4] 第8回観測的宇宙論ワークショップ(2019年12月)において口頭発表を行った。([1], [4]は招待講演。)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度の研究計画は、本研究課題の根幹を成すアクシオン電磁気学シミュレーションのコード開発を完成させ、コードの有効性を確かめるためのテストシミュレーションをいくつか実行することを第一の目標としていた。実際には計画通り、2019年度末までには単純化したセットアップを仮定したアクシオン電磁気学の格子シミュレーションコードを大部分完成させている。また、自身のコンピュータを用いてシミュレーションを実行し、アクシオンをコヒーレント振動とみなすもっとも単純な状況において、アクシオンが電磁波に変換されるという物理的仮定をコンピュータ上で再現することに成功している。さらに、一歩進んだ状況として当初の計画に入れていた、中性子星の磁気双極子の向きと回転軸の向きがずれている場合に対応する、時間変化する磁場を考慮した場合及び、アクシオンの初期条件として、マクスウェル分布に従いランダム運動している場合もシミュレーションに実装するまでに至っており、いくつかの計算結果も既に得ている。 以上のことから、当初計画していた中性子星周りのアクシオン暗黒物質の数値シミュレーション開発は概ね順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は当初の研究計画に従い、2019年度に開発を進めてきた格子シミュレーションを本格的な実行に移す。現実的なパラメターで計算するために必要な性能を有するワークステーションを新規に購入し、これを用いてシミュレーションを実行する。また、シミュレーションにより得られた結果を詳細に解析し、アクシオン起源の電波シグナルとしてどのようなものが予言されるかを理論的に考察する。具体的には、アクシオンによる電磁放射の強度と指向性を詳細に評価し、どのようなシグナルとして地球に届いているかについて定量的な予言を行う。特に中性子星の磁気双極子モーメントと回転軸の向きがずれている場合はその回転周期に対応して、電波シグナルの強度が周期的に変動する振る舞いをすることが期待されるが、実際にシグナルがどのように時間変化するかをシミュレーション結果を解析して詳細に評価する。また、アクシオンのコヒーレント性が電波放射シグナルの強さにどのように影響するか、アクシオン特有のシグナルが他の要因から来る電磁波と区別できるかどうかなども合わせて明らかにする。特に、2020年度中に初期観測を開始するSKAに照準を合わせ、アクシオン検出の可能性や将来的なパラメター領域に対する制限を、検出器のノイズ解析を含め定量的に評価する。 さらに進捗状況によっては、より現実的なセットアップに近づけるため、数値シミュレーションコードに新たに重力の効果を入れる拡張を施すことも計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、2019年度に32コアCPUを有するワークステーションを購入し、本研究課題遂行のための数値計算に使用する予定であった。しかし、2019年度は主に数値解析コードの開発を推し進め、コードの正当性をチェックするためのテストシミュレーションは現在所有しているラップトップPCで十分であったため、本格的な計算に使用予定のワークステーションの購入を見送った。本格計算は2020年度中に開始する予定であるため、今回生じた次年度使用額は2020年度でのワークステーションの新規購入に充てる。また、年度末に予定していた研究会参加や共同研究者との研究打ち合わせがCOVID-19の影響のため取り消しとなったため、そこで旅費として使用予定であった額が次年度使用額として残った。この額は2020年度にテレワーク環境を整備するために使用する予定である。
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