研究課題/領域番号 |
19K14709
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
池野 なつ美 鳥取大学, 農学部, 講師 (30756086)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 核物質の状態方程式 / 対称エネルギー / 重イオン衝突 / 中間子生成 / パウリブロッキング / 輸送模型 / ハドロン / カイラル対称性 |
研究実績の概要 |
本研究では、微視的な輸送模型を駆使し、低中エネルギー領域における重イオン衝突を計算することで、高密度非対称核物質における状態方程式(対称エネルギーの密度依存性)に関する情報を引き出すことを目的としている。中性子過剰な原子核衝突によって生成された荷電π中間子比が、高密度領域の対称エネルギーに敏感であると提案され、理研RIBFでSn+Sn衝突実験が行われたことから、特にπ中間子生成に着目した。核子系の運動を記述する反対称化分子動力学(AMD)法と、Δ共鳴やπ中間子などの運動を記述する微視的輸送模型(JAM)を連動させた輸送模型(AMD+JAM)を用いて本研究を推進した。 重イオン衝突では、反応過程においてΔ生成・吸収(NN<->NΔ)やπ中間子生成(Δ->Nπ)反応などが生じる。本年度は、輸送模型でこれらの反応について、核子に対するパウリブロッキングが、終状態のπ中間子生成数や荷電π中間子比に影響を及ぼすことを明らかにした。パウリブロッキングの取り扱いによる影響を定量的に議論し、π中間子生成の実験データを正しく理解するための重要な要因の一つであることを示した。実験データから新たな知見や物理量を引き出すためには、信頼度の高い理論模型が求められる。本輸送模型(AMD+JAM)では、このパウリブロッキングによる不定性を取り除いて模型を改良することができた。その上で、理研実験に対応したπ中間子生成を計算し、これらの研究成果を国際学術論文として出版した。また、重イオン衝突では、各時刻で温度や密度が異なる多彩な核物質となるため、様々な状況下でクラスターを含む核子系や中間子が織りなす現象・性質を理解する必要がある。本年度は、カイラルユニタリー模型を用いて、種々のハドロン反応やハドロン共鳴の研究を行い、これらの成果を国際学術論文として出版した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
重イオン衝突でのπ中間子生成計算において、核子に対するパウリブロッキングの取り扱いによる影響は小さいと思われていたが、今回、その影響を定量的に議論し、π中間子生成の実験データを正しく理解するための重要な要因の一つであることが示せた。本模型(AMD+JAM)では、このパウリブロッキングの取り扱いによる不定性を小さくする模型へと改良することができた。また、カイラルユニタリー模型を用いたハドロン反応の研究を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
現在の本輸送模型(AMD+JAM)では、π中間子やΔ共鳴のポテンシャルの効果などが考慮されていないため、これらを考慮するために、コードの改良を行う。核物質中のハドロン生成や性質について、カイラル有効理論を用いて理解する研究も継続して行い、これらを輸送模型に取り入れることを考える。多数の輸送理論コードの結果を比較する国際共同研究も継続して行い、他の理論結果との相違を理解した上で、信頼度の高い理論模型へ発展させる。理研RIBFで行われたSn+Sn衝突の実験結果と理論計算結果を比較し、データの解釈や対称性エネルギーに関する情報を引き出すことへ繋げる。
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