(1)QCDの高精度予言を実現するにあたり、リノーマロンとして知られる摂動級数の発散的振る舞いは予言精度に限界を与え、その克服は重要な課題である。本研究課題では、リノーマロンに起因する摂動予言の誤差を系統的に取り除き、この下でより高精度が実現できる演算子積展開(OPE)の枠組みでの予言を目指す。特定の近似や物理量に限らずにリノーマロン誤差を系統的に取り除く手法の開発は本プロジェクトの核心の一つであったが、これまでにこのような手法を開発し、論文として発表した(現在査読中)。提案した手法では摂動の高次補正を用いることで系統的に精度を向上することができ、同時にリノーマロン誤差の分離が解析的な手法でできる。このような性質はOPEの枠組みで系統的に精度向上を実現する上で極めて有用である。特にグルーオン凝縮などの非摂動効果を決定することが可能になり、摂動論を超える予言を与えるための理論的基礎の整備を行うことができた。また理論的な観点からもリノーマロンの誤差と摂動論の信用可能な部分の関係を明白にし、近年リサージェンス構造として注目されているものの一つの形を具体的に示した。その他にもQCDポテンシャルのサブリーディングのリノーマロン構造を初めて明確にし、論文にまとめた(現在査読中)。(2)摂動論に本質的に存在する誤差、リノーマロンを打ち消す非摂動効果の候補としてバイオンと呼ばれる半古典的オブジェクトが注目されてきた。バイオンがリノーマロンを打ち消すという予想を検証するため、バイオン計算がなされている系でリノーマロン誤差の明確な計算を行い、バイオンとリノーマロンの相殺は成立しないことを明らかにした。またさらに検証を進め、バイオンの誤差と相殺する摂動論の誤差を特定した。これは近年注目されていた予想に関する一連の議論に終止符を打つものと考えている。
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