研究実績の概要 |
ブラックホールから放出される相対論的ジェットの生成機構は宇宙物理学最大の謎の一つである. 本研究では, 特に相対論的ジェットへの物質注入機構に対してブラックホール近傍での電磁カスケード現象に注目し, 粒子の加速と生成過程を取り入れた一般相対論的プラズマ粒子シミュレーションコードを用いて, 相対論的ジェットの生成機構の解明を目指している. 1. ある準定常的に電磁カスケードを起こしている状態からブラックホール周囲の降着円盤からの放射に対するパラメータを変化させることで擬似的にフレアを起こさせ, その応答の特性を調べた. 様々なパラメータを変化させた結果として, ほとんどの場合は短い時間で変化後のパラメータの値に対応する準定常状態に遷移することがわかった. しかし, ブラックホール近傍を流れる電流を増加させた場合, プラズマが全体的に不足することで強い電場を誘起し, ごく短期間に限り1桁以上のガンマ線光度の増光が起こることがわかった. これらの結果は, 将来的に詳細なガンマ線フレアに対する観測データが得られた際に, そのフレアがどのような原因で発生したかに対する理論的解釈を与える上で重要となる. 2. 電磁カスケードに伴うガンマ線光度のパラメータ依存性の理解を目的として, シミュレーション結果を再現する解析的モデルを構築した. この結果, 計算コストの問題から調査が難しいパラメータ範囲に対するガンマ線光度や生成する粒子数に対する示唆を得ることができた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の主な目標は, 活動銀河核から観測される時間変動の激しいTeVガンマ線帯域の増光現象(フレア)の機構を明らかにすることである. ブラックホール近傍の降着円盤からの放射特性などのモデルパラメータの変化を取り入れることで, ガンマ線光度がどのように振る舞うかについての定量的な評価が得られた. また, 次年度の計算コードの拡張に向けて現在の数値結果を理解するための解析的モデルの構築により, 拡張する効果を解釈するための準備を整えており, 当初の予定通りの進展が達成できたと言える.
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの計算の結果, 計算領域内で生成した粒子はジェットからの電波放射の観測データを説明するために要求される粒子数よりずっと少ない. ただし, ジェットからの電波の放射領域は数値計算領域よりずっと外側の領域である. 解析的な見積もりの結果, 計算領域の外側でも十分な粒子生成が起こりえることがわかった. 特に, これまで計算領域内では粒子生成に寄与しないとして無視していた曲率放射起源のガンマ線による粒子生成も, 外側では起こることが期待される. そこで, より広い空間領域でのガンマ線放射と粒子生成の計算を行う. 具体的には, これまでに得られた加速領域から放出される粒子と光子のエネルギー分布を初期条件としてガンマ線放射と粒子生成を考慮して粒子と光子の伝搬を計算する. これにより, 最終的な粒子と光子の個数とエネルギー分布が得られ, 観測データと詳細な比較が可能となる. また, 粒子の運動に対する慣性力を考慮した計算を行う. これまでの計算で, 期待されるガンマ線光度に達するパラメータ範囲が非常に狭いことを明らかにした. ただし, もし加速電場を遮蔽する粒子の運動を阻害する力が働けば, ガンマ線光度が増加する可能性がある. 一つの可能性として, 磁力線に垂直成分の電場に起因する回転運動で現れる慣性力が挙げられる. そこで, 回転運動を取り入れた数値モデルを構築することを予定している.
|