研究課題/領域番号 |
19K14715
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
伊形 尚久 立教大学, 理学部, 特定課題研究員 (40711487)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ブラックホールシャドウ / 対称性 / 脱出確率 / 光子リング |
研究実績の概要 |
M87銀河の中心領域に存在するブラックホール候補天体によるシャドウ現象が2019年に観測された。この中心天体は超高速回転している可能性があり、その最も有力な候補の一つが本研究対象である近臨界ブラックホールである。中心天体をブラックホールと同定するためには、ブラックホール特有の性質であるホライズンと密接に関連した観測可能量を見出さなければならない。そこで本研究では、近臨界ブラックホールのシャドウに関連する現象について考察を進めている。今年度は当初の計画どおり、時空の対称性を活用することで近臨界ブラックホールシャドウの周縁部(光子リング)とホライズン近傍で散乱される光線との対応づけを行った。これにより、光子リング上の有限幅の領域に到達する光が、過去にホライズン近傍において、ブラックホールを何周も回って散乱されている様子を明らかにした。さらに、ホライズン近傍から発せられた光の観測可能性について考察を行った。この成果の一つは、近臨界ブラックホールを何周も回る間に、光線束が剪断変形が起きにくい性質を明らかにしたことである。これは、剪断変形を通じた光子の損失が抑えられることから、結果として光子リングの減光率が低下することを示唆している。もう一つの成果は、近臨界ブラックホールのホライズン近傍からの光子の脱出確率と振動数シフトが、観測可能な値を示すという事実を明らかにしたことであり、これにより超高速回転ブラックホール特有の性質が観測可能量と結びつけられたことを意味している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、近臨界ブラックホールのシャドウの周縁部とホライズン近傍で散乱される光線との対応づけ、およびシャドウ形状に対するニアホライズン対称性の反映の検証を行うことを計画していた。これらの計画を遂行し、研究計画の段階での予想どおり、ホライズン近傍の情報を含んで到来する光が、シャドウの一部分に集中して飛来するという結果を得ている。また,ニアホライズン領域のスロート構造が、ブラックホールシャドウの形状の一部に、直線上の構造として見えるという結果を得ている。さらにこれらの成果は、学会発表および学術論文として公表しており、おおむね研究計画通りの進展状況といえる。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、ニアホライズン領域において、一定半径をとりつづける光線の軌道(spherical photon orbit)について、さらに詳細な解析を行うことを計画している。とくに、ホライズン半径に近い半径におけるこの軌道の性質を集中的に研究することで、2019年度に得られた結果の理解をさらに推し進めることを目指す。このためには、計画通りに進まない場合の対応策として研究計画に記載していた、ニアホライズン領域だけを「切り出した時空」を積極的に用いることが有効であると考えている。これを使って、シャドウに現れる近臨界ブラックホールの兆候を示す観測可能量を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大による影響により、予定していた研究会や学会への参加がキャンセルになったため。このために今年度終わりに報告できなかった研究成果を、次年度に報告するための出張費用とすることを計画している。
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