前年度までの研究成果により、ブラックホールの回転速度がほぼ臨界値に達した場合、イベントホライズン近傍の光源から放射される光子の脱出確率が予想を上回ることが明らかとなっている。この非自明な現象は、近臨界回転ブラックホールのホライズン近傍で拡大する対称性に起因するものであり、本研究および他のグループによる一連の研究成果によって徐々に解明されてきた。 本年度の研究では、これまで数値的な解析に基づいて得られていた近臨界回転ブラックホール近傍の光源からの光子脱出確率を、解析的な手法によって評価することを目指した。具体的には、上述の対称性と関連研究の成果を活用して、新たな理論的な定式化を行った。特に、従来の解析では問題となっていた円運動する光源の軌道半径が臨界極限においてホライズンの半径に縮退するという特異な振る舞いについて、臨界極限の操作とその極限値の明確化を行い、光子脱出確率の極限値への影響を詳細に解析した。 本研究により、光源の重要な軌道における光子の脱出確率の解析値を得ることに成功した。これらの結果は、前年度までの数値的な解析における値を再現するだけでなく、ホライズン領域における軌道の特性をを明確化することができた。また、従来の数値的解析では到達不可能だった領域まで解析が可能となり、ホライズン領域の中でもより深い領域での光源の軌道の明確化とそのときの脱出確率が評価できるようになった。 本研究成果は、上記の解析的な定式化を通じて、近臨界回転ブラックホールにおける対称性の影響が光子の脱出確率にどのように影響するのかを定量的に明確にしたことである。また、近臨界回転ブラックホール近傍の光源によって形成されるブラックホールシャドウの明環の特異性に対する理論的な知見を提供するものである。これにより、今後の観測や応用研究において、その基礎的な理解を提供するものになると期待される。
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