本研究では、高エネルギー原子核衝突によって生成される光子のうちハドロン崩壊過程から生じるものを除いた直接光子について、その生成機構を定量的に評価することおよびそこから高温高密度における量子色力学(QCD)物質の性質を理解することを目標とする。相対論的重イオン衝突型加速器や大型ハドロン衝突型加速器における原子核衝突では、衝突から熱平衡化、流体時空発展、ハドロン輸送過程を経る複合的な理論モデルが実験データに対して良い記述を与えるとされる。一方で、直接光子生成の評価では衝突直後に生じる即時光子と、QCD媒質から生成される熱光子しか考慮されてこなかった。直接光子においては理論計算が粒子収量と方位角異方性を過小評価する問題があり、熱平衡化段階における光子生成などを含めた統合的なモデルを構築する必要がある。 熱平衡化の過程においてはクォークやグルーオンの分布関数が自己相似性を保ったまま時空発展することが示唆されており、これに基づき直接光子生成率を評価した。その上で相対論的流体モデルを基にした数値シミュレーションによって、これらの光子の寄与がカラーグラス凝縮モデルによって示唆される飽和運動量Qs付近で熱光子や即時光子の寄与と同程度になる可能性を示した。さらに有限密度領域において、正味バリオン、ストレンジネス、電荷の存在により熱光子生成率が受ける影響について検証した。またQCD物質の性質を理解するため、有限温度・有限密度における状態方程式を格子QCDとハドロン共鳴ガス描像に基づいて構築したほか、熱統計力学を拡張したTsallis統計力学に基づく状態方程式を構築し、流体モデルを用いた定量的評価を行なった。研究成果は適宜国内外の学会や研究会で発表し、論文にまとめた。また関連してInternational Journal of Modern Physics A誌へ招待レビュー論文2本を寄稿した。
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