研究課題/領域番号 |
19K14729
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
糠塚 元気 山形大学, 理学部, 研究員 (00824864)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 核子構造 / 高エネルギーQCD / 陽子スピンの起源 / ドレル・ヤン過程 / 偏極標的 |
研究実績の概要 |
本研究は CERN COMPASS 国際共同研究が 2015, 2018 年に行った偏極ドレル・ヤン (DY) 測定データを解析し,標的陽子の横スピンに依存した構造,特に Sivers 関数と呼ばれる分布関数の情報を得ることが目的である。 2019 年度は主に CERN に滞在し,2018 年データの物理解析と,物理解析に必要な偏極標的の偏極度解析を行った。物理解析では,すでに行っていた 2015 年のデータ解析と同じ方法でデータの一部を解析し,DY 過程で生成された仮想光子の角度分布の非対称度を速報値として得た。非対称度は標的とビームの構造を反映しており,実験結果単体では Sivers 関数の値に言及することはできないが,理論予測との比較から検証することができる。解析の過程で多くの問題点,改善点を発見し,解析の改善に努めている。偏極度の解析は COMPASS の中でも偏極標的に携わったことのあるものにしかできない独立した領域であり,研究代表者が行った。非対称度の速報値は国際シンポジウム The 11th Circum-Pan-Pacific Symposium on High Energy Spin Physicsで報告した。日本物理学会でも報告を予定していたが COVID-19 の影響で学会が中止になってしまった。 2020 年度は 2018 年データすべてを使って非対称度を得る。非対称度の系統誤差決定には偏極度の誤差も必要だが,上半期で仕上げる予定である。2018 年データ解析で大きな問題が見つからなければ,2015, 2018 年データを合わせて解析することで統計誤差を小さくし,偏極 DY 過程の Sivers 非対称度を世界最高精度で決定し,Sivers 関数の符号の議論に決着をつける。偏極標的の解析はそれ単体で論文として報告する価値のあるものであり,論文を執筆する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2018 年に収集したデータの解析を進めている。同様の測定を 2015 年に行っており,解析のおおよその流れを踏襲して一部のデータを解析し,非対称度の速報値を得た。だが生データに記録されている信号情報を物理解析を行える状態へ解釈する再構成の段階で 2018 年データ特有の状況,現象への対処が必要であり,地道な確認作業やテストの時間がかかっている。2015 年解析では見送っていた x-y 座標に依存したトリガー検出効率適用など,新たな試みもすすめている。また COMPASS が利用できる計算機環境が変わり,以前使用していたアメリカ国立スーパーコンピュータ応用研究所の Bluewaters からアメリカ・テキサス高等コンピューティングセンターの Frontera への移行も簡単ではなかった。その一方で,標的の偏極度は物理解析に必須の情報であり,標的グループが行う。私は標的グループとしても多くの役割を担っており,偏極度解析も担当した。前任者から引き継いだプログラムを大幅にアップグレードし,従来よりも効率よく研究をすすめることができた。2019 年 10 月には偏極度の最終結果を得て,物理解析に加える準備が整った。現在は偏極度の誤差を見積もっている。 研究成果を 2019 年 8 月に The 11th Circum-Pan-Pacific Symposium on High Energy Spin Physics で報告した。2020 年 3 月の日本物理学会第 75 回年次大会 でもさらなる報告を予定していたが,学会が中止になってしまった。 当初は CERN への旅費を本研究予算から支出する予定であったが,COMPASS 日本グループ代表岩田の「頭脳循環を加速する戦略的国際研究ネットワーク推進プログラム」との兼ね合いのため,そちらから支出した。COVID-19 の影響で参加予定だった研究会,学会が中止になり,予算執行に大きな影響があった。
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今後の研究の推進方策 |
COVID-19 の影響で研究活動や移動が制限されており,これからの見通しは不透明であるが,データ解析は世界中のどこからでもインターネットを介して行うことができるため,致命的ではないはずである。 2018 年データ解析で残されているトリガー関係の研究に早々に仕上げ,偏極度決定に注力する。偏極度の系統誤差評価も同時に行う。2015 年データ解析と同じ手法で非対称度を決定する。問題が見つからなければ,2015 年データと 2018 年データの療法を合わせて非対称度を決定し,Sivers 関数の符号決定精度を上げる。研究結果は国内,国際学会で積極的に報告する予定である。 偏極度の誤差を上半期で結論づけ,物理解析の系統誤差見積もりに使用する。必要であれば共同研究者のもとへ赴いて議論を行う。偏極度の研究はそれ単体で論文として出版する価値があるので,時間的に可能であれば取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者は,COMPASS 日本グループ代表岩田の「頭脳循環を加速する戦略的国際研究ネットワーク推進プログラム」(頭脳循環)で派遣者としても CERN に滞在する必要があったため,旅費をそちらから支出していただいた。年度終わりに参加予定だった研究会や物理学会が COVID-19 の影響で中止になってししまったため,旅費を支出する機会が無かった。 COMPASS への参加費は頭脳循環から支出していただいたが,次年度は本助成金から支出する。
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